展覧会・文化財を見てきました。

─展覧会鑑賞・文化財見学に関する勝手な感想─

最終更新日 12月11日


平成29(2017)年度

4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月


4月8日
奈良国立博物館
 特別展 快慶-日本人を魅了したほとけのかたち-
(4月8日~6月4日)
 鎌倉時代を代表する天才仏師「巧匠」「アン阿弥陀仏」快慶の作例を過去最大の規模で一堂に集め、快慶が生きた時代とその造像活動を重ねて浮かび上がらせつつ、初期から晩年までの作風の変遷をたどる。端正で華麗なその像容の魅力のみならず、康慶一門に属しつつも、後白河院周辺や重源との間に特別なつながりを有し、敬虔な信仰心に基づく独自の造像活動をなしえた快慶その人の魅力にも迫る。東大寺阿弥陀如来立像や僧形八幡神坐像、金剛峯寺四天王立像などどれをとっても重要な在銘作例ばかりであるが、ボストン美術館弥勒菩薩立像、キンベル美術館釈迦如来立像、メトロポリタン美術館地蔵菩薩立像・不動明王坐像の4躯の在外作例も請来し、東大寺西大門勅額の八天王像を分離して鑑賞を容易にするなど、快慶様式の把握と理解を大きく助ける画期的な展示。図録(265ページ、2300円)には未出陳の快慶作例一覧、快慶作例の銘記一覧(未出陳品含む)、文様集成、X線透過画像、そして膨大な参考文献と各論が掲載され、今後の快慶研究の上における基礎資料となる重要な成果物。会期中、遣迎院阿弥陀如来立像(4/11~)、醍醐寺弥勒菩薩坐像(4/25~)、西方院阿弥陀如来立像(4/25~)、藤田美術館地蔵菩薩立像・阿弥陀如来立像(5/16~)が続々と合流。何度も通わねばならぬ。

安倍文殊院

 快慶展を見て外に出ると雨が降りそうで、傘がないので東大寺南大門はあきらめて急ぎ車に戻り、安倍文殊院へ向かう。巨大な文殊菩薩及び侍者像を拝観。建仁3年(1203)10月3日に南大門金剛力士像の開眼供養が行われた5日後、10月8日に本像頭内に重源・同朋衆・快慶の名が記され、11月30日には東大寺総供養が行われている。疾走するように続く大事業の中、重源の文殊信仰に基づいて行われた本像の造像は、東大寺復興事業と一連のものであったと提起されている(谷口耕生「重源の文殊信仰と東大寺復興」、奈良博『大勧進重源』図録、2006年)。実際の群像の完成は承久2年(1220)までかかっているが、面貌表現は建仁年間のもので、中尊の木作りは総供養までには随分進んでいたのであろう。五台山文殊の宋仏画を元に、破綻なく立体化して細部まで洗練された大迫力の姿に、快慶とその配下の集団の練度の高さを見る。


4月16日
大阪市立美術館
 特別展 木×仏像-飛鳥仏から円空仏へ 日本の木彫仏1000年-
(4月8日~6月4日)
 主に関西地方の木彫仏を集め(ほか東博・東藝大美のコレクションも)、樹種や技法、仕上げの違い、木への聖性のまなざしに目配りしながら、概ね年代順に並べて様式の変遷を提示する。大美収集の館蔵品・寄託品もフル活用。飛鳥~平安時代前期の作例を集めた第1室では、唐招提寺伝獅子吼菩薩立像(8c)、東大寺弥勒仏坐像(8~9c)と並び、奈良・宮古薬師堂薬師如来坐像(9c)が寺外初公開。ありがたく像の周囲をぐるぐるまわりながら、正側背をじっくり鑑賞し、その圧倒的な造形を堪能する。解説では印相や伝来環境から唐招提寺との関係性を提示しており、重要な指摘。ほか、長圓寺十一面観音菩薩立像(9c)、三津寺地蔵菩薩立像(10c)、孝恩寺虚空蔵菩薩立像(10c)、河合寺二天立像(11~12c)、東光院釈迦如来坐像(11~12c、元清凉寺釈迦如来立像光背化仏)、専修寺阿弥陀如来坐像(12~13c)、四天王寺十一面観音立像(13c)、大日如来坐像(14c、和歌山・明王院伝来)など、大阪府下の重要作例を重点的に鑑賞。図録あり(172ページ、2000円)。


4月17日
杏雨書屋
 特別展示会 杏雨書屋の仏典
(4月17日~4月22日)

 武田薬品五代社主武田長兵衞設立の杏雨書屋のコレクション展。重要な仏典をセレクトして公開。磧砂版大蔵経(南宋時代刊。朝鮮慶尚道天徳寺藏本を対馬の宗貞守・成職が入手し伊津八幡宮奉納)は、経典と籤(検索用下げ札)、幅子、経箱をともに展示。京大総長羽田亨旧蔵敦煌・トルファン関係資料からは、正始元年(504)大涅槃義記、貞明6年(920)仏説仏名経、阿弥陀如来や菩薩半跏像の印仏が捺された印沙仏など。平安時代中期写本の遍照発揮性霊集巻六は内藤湖南旧蔵。ほか元徳3年(1331)書写の聖徳太子伝暦、保元元年(1156)薬種抄などなど50点がずらり。図録あり(52ページ、無料)。


4月26日
東京国立博物館
 平成29年新指定国宝・重要文化財
(4月18日~5月7日)
 恒例、新指定国宝・重文お披露目展示。国宝となった深大寺釈迦如来倚像、中尊寺の仏像と共通する作風の宮城・お薬師様文化財保存会千手観音坐像(脇手も良好に残る)、脇侍が跪坐して幡を執る来迎形の廬山寺阿弥陀如来及び両脇侍坐像(指定では13世紀初めと時期限定)、平安時代後期のまとまった神像群である南宮神社神像・随身立像をしっかり鑑賞。

 特集 幕府祈願所 霊雲寺の名宝
(4月25日~6月4日)
 梵字悉曇の碩学として著名な浄厳を開基とする霊雲寺伝来資料を展示。弥勒曼荼羅図(重文)、諸尊集会図(重文)、日吉山王本地仏曼荼羅図(重文)、十六羅漢図(重文)、浄厳の解釈による独自の両界曼荼羅図など仏画の優品ずらり。リーフレットあり(8ページ)。

 特別展 茶の湯
(4月11日~6月4日)
 茶の湯を巡る文化や美術を通史的に紹介。冒頭から牧谿筆観音猿鶴図(大徳寺)、稲葉天目(静嘉堂文庫美術館)、油滴天目(大阪市立東洋陶磁美術館)、青磁浮牡丹文花瓶(アルカンシェール美術財団)等々が並ぶ豪華さ。選りすぐりの名物や優品を、大盛況で十重二十重の頭越しにちらりちらりと鑑賞。図録(430ページ、2800円)で勉強しよう。

びわ湖長浜KANNON HOUSE
 長浜市 長浜城歴史博物館 聖観音菩薩立像
(3月14日~5月21日)

 もと長濱八幡宮神宮寺・新放生寺の別院妙覚院に安置され、のち北門前観音講に伝わり、現在は長浜城歴史博物館の所蔵となる10c末~11c初の観音像を出開帳。裾部はかつて朽損したようで脛から下は補材となっているが、背面に正徳元年(1711)の修理銘があり、先の伝来も伝える。仏像の伝来把握の上で、修理銘はとても重要。

サントリー美術館
 六本木開館10周年記念展 絵巻マニア列伝
(3月29日~5月14日)
 優れた絵巻の数々を、後白河院、花園院、後崇光院・後花園院、三条西実隆、足利将軍家、松平定信と、それを享受し作製させた熱烈な愛好者に着目する視点のもと、集約する。またそうした愛好者の絵巻を巡る動向を、数々の古記録、日記も徹底して集めて作品の歴史的位置を明確にしており、タイトルのキャッチーさに比して、美術史の論文を懇切に展示化したとも言うべき、正統派「THE 美術史」展示。病草紙断簡、春日権現験記絵、石山寺縁起絵巻、矢田地蔵縁起絵巻、絵師草紙、彦火々出見尊絵巻、玄奘三蔵絵、福富草紙、芦引絵、當麻寺縁起絵巻、桑実寺縁起絵巻、譽田宗廟縁起絵巻、法然上人絵伝…、と次々に顕れ、繰り広げられる絵巻に驚き拝み見るその心持ちは、まさにかつての愛好者たちとも重なるよう。図録あり(246ページ、2600円)。

三井記念美術館 

創建1250年記念 奈良 西大寺展-叡尊と一門の名宝-
(4月15日~6月11日)
 西大寺と真言律宗の名宝の出開帳展。展示室の構造上、全彫刻作品が間近に迫り、興正菩薩坐像、愛染明王坐像、文殊菩薩・善財童子・最勝老人像、大黒天立像と善派仏師の作例を堪能。浄瑠璃寺・岩船寺・元興寺・宝山寺・称名寺・極楽寺など真言律宗寺院の文化財も集める。三井記念美術館・あべのハルカス美術館・山口県立美術館を巡回。図録あり(288ページ、2700円)。


5月6日
兵庫県立歴史博物館
 特別展 ひょうごの美ほとけ-五国を照らす仏像-
(4月22日~6月4日)

 兵庫県内に伝来した数多くの仏像を、この四半世紀における調査研究の成果を踏まえて集約し公開する。白鳳時代の應聖寺誕生釈迦仏立像(平成19年確認)、平安初期の日野辺区聖観音坐像(平成14年確認)、平安前期の瑠璃寺不動明王坐像(昭和61年確認)、平安中期の圓教寺性空上人坐像(平成12年確認)、快慶の作風を示す浄土寺阿弥陀如来立像(平成20年確認、来迎会所用か)、小谷区阿弥陀如来立像(加西市史編纂時確認)、鎌倉前期の圓教寺毘沙門天立像(近年の護法堂修理時に確認、特殊な用材の慶派作例)など着実な調査の足取りを示すとともに、金蔵寺阿弥陀如来坐像(奈良時代)、随願寺毘沙門天立像(平安後期)、萬勝寺阿弥陀如来坐像(鎌倉初期)、法恩寺菩薩坐像(宋時代)など古代~中世の作例から、江戸時代の宮内法橋や厚木民部の作例までをフォローする。パネルでも多数の作例を紹介して、兵庫県の仏像の流れを一望する彫刻史研究展示の集大成。「展示」の背景には、学芸員による膨大な調査研究の営みと知の蓄積があることを感じさせる重厚な企画。こうした成果を検証し深化させていくことが、知の共有化の恩恵を受けた研究者の責務と気を引き締める。図録あり(152ページ、2000円)。鑑賞後、同行した子と、姫路城散策。ゴールデンウィークでご訪問者多く、天守閣内は大渋滞。

5月16日
高野山霊宝館
 企画展 霊場高野山-納骨信仰の世界-
 (4月15日~7月9日

 弘法大師とともに弥勒下生の時を待つ高野山信仰に基づいた、高野山奥之院の埋経・納骨・造塔の諸相を紹介。奥之院御廟内から出土した比丘尼法薬埋納の経塚資料(重文)、南保又二郎納骨塔である金銅宝篋印塔(重文)といった紀年銘を有する資料を核に、青磁や白磁の舶載品から瀬戸や常滑の壺、小型のもの(壺形・蓮弁形・仏形など)などさまざまな納骨器が並ぶ。ほか高野山近隣の村で製作された位牌や、宝寿院決定往生集(重文)、報恩院高野山蓮華曼荼羅も。紫雲殿では至正10年(1350)銘を有する高麗仏画の五坊寂静院弥勒下生変相図や、阿弥陀聖衆来迎図(大正期模写本)など、阿弥陀像・弥勒像が並ぶ。後期(5/30~)には南宋仏画の成福院阿弥陀如来像もお出まし。図録あり(8ページ、200円)。

5月28日
奈良国立博物館
 特別展 快慶-日本人を魅了したほとけのかたち-
(4月8日~6月4日)
 再訪。醍醐寺弥勒菩薩坐像、遣迎院阿弥陀如来立像と、東大寺阿弥陀如来立像・地蔵菩薩立像に時間をかけつつ、初期作例を重点的に鑑賞。同行した娘は着衣形式三類型のパネルを見て、これは第1、あれは第2、こっちは第3とチェックしながら会場一周。本館の仏像見ても平安後期の像に第1、鎌倉後期の像に第3とチェック続行。

6月25日
逸翁美術館
 開館60周年記念展 第二幕 開け!絵巻
(6月10日~7月30日)
 館蔵の絵巻物及び経典類を多数展示。大江山絵詞(重文)、芦引絵(重文)、白描絵料紙金光明経(重文)、十巻抄(重文)、露殿物語(重美)のほか、石山寺縁起絵巻、春日権現験記絵巻、蒙古襲来絵詞、六波羅合戦絵巻の江戸時代模本や松岡映丘写の白描枕草子絵巻など、収集者(小林一三)に絵巻物というジャンルを体系的に収集する意図があったことを実感する。和歌山関連として高野大師行状絵巻、絵因果経断簡(勝利寺本)、道成寺縁起絵巻、熊野本地絵巻、西行物語絵巻もじっくり鑑賞。大江山絵詞、熊野本地絵巻は、物語内容を絵で要約したパネルを用意し、前者はプロジェクターでの内容絵解きも準備して、絵巻物の理解を助ける。今回の展示に際しての図録はないが、同館編『絵巻 大江山酒呑童子・芦引絵の世界』(2011年)に経巻類以外はだいたい掲載(1080円)。
 鑑賞後、近隣の勝尾寺に足を伸ばして拝観。瀧安寺(箕面寺)も行こうと思うも時間が足らず断念。

6月29日
京都国立博物館
 名品ギャラリー 閻魔と地蔵  
(6月13日~9月3日)
 京都での仕事の帰りに立ち寄り。新町地蔵保存会の地蔵菩薩坐像(平安時代前期・9世紀・重要文化財)と、その複製を並べる。複製は京博のX線CTでデータ計測し、外部業者がデータ補正したのち京博の3Dプリンターで出力、京都市産業技術研究所が漆塗り仕上げを施して完成させたもの。今後、防犯・防災のため伝来してきた堂舎に実物の代わりに安置されるもので、信仰対象であることを考慮して干割れの再現や破損部位の塗り分けは行われなかった由。
 和歌山方式(「集落の過疎化高齢化のもと空前の文化財盗難被害に遭うなか緊急措置としてレプリカを活用せざるを得ない状態まで追い詰められた和歌山方式」の略)の仏像レプリカは、県立和歌山工業高校でデータ計測、CADソフトで修正、3Dプリンターで出力(ABS樹脂製)し、博物館で部材接着・表面研磨(アセトンで溶かしてヤスリがけ)ののち、和歌山大学教育学部美術教育専攻の学生がアクリル絵の具で着色して完成させている。新技術を活用し、文化財の保存・継承につなげていく上では、なぜその方法によるのかという理論の構築も大切。京博方式の漆塗り仕上げというのも、一つの回答。
 名品ギャラリー「伝説の画家たちが描いた仏画」(6月13日~7月23日)では初見の宋元画を堪能。今宮神社線彫四面石仏(重文)もスケッチしながらじっくり鑑賞。

7月1日
大和文華館
 特別展 没後三〇〇年 画僧古磵
(5月20日~7月2日)

 大学の補講を兼ねて鑑賞。江戸時代前期の浄土宗僧で、京都・奈良で活動した画僧明誉古磵(みょうよこかん・1653~1717)の回顧展。報恩寺当麻曼荼羅図、浄国院大経曼荼羅図、大宗寺無量寿経曼荼羅図・阿弥陀経曼荼羅図、光伝寺涅槃図、薬師寺薬師浄土曼荼羅図など大画面の仏画、古磵らしい特徴ある風貌の薬師寺法相十八祖像や三祖師像、濃彩で群像を生き生きと活写した薬師寺縁起絵巻や知恩院円光大師贈号絵巻、闊達で諧謔味のある墨画の大黒天図(生涯に2000枚を描き寄進したという)、そして版本の挿図まで、幅広い画僧の活動を一望する。泉涌寺の縦15.1m、横7.6mの大涅槃図(未出陳)は最晩年の絶筆と知る。驚き。これからの近世仏画研究の上で着目すべき重要な人物と認識する。図録あり(192ページ、2600円)。大谷徹奘「画僧・古磵の生涯」、古川攝一「画僧古磵の仏画について」所収。また画僧・古磵研究会監修、大谷徹奘編『画僧古磵Vol.1 街かどの福の神と多彩なる水墨画の世界』も頒布(108ページ、2160円)。落款が大きく掲載されていて有益。

唐招提寺
 帰りに立ち寄り。金堂の仏像をご拝観。千手観音立像をじっくりと。新宝蔵の公開は前日まで。がくっ。

7月15日
国立歴史民俗博物館
 企画展示 URUSHIふしぎ物語-人と漆の12000年史-
(7月11日~9月3日)

 日本列島における漆使用の歴史と文化の諸相を、考古・美術・民俗・歴史に関する多数の資料をもとに「ウルシと漆」「漆とてわざ」「漆とくらし」「漆のちから」「漆はうごく」「これからの漆」の章立てで叙述する。展示室冒頭5メートルに詰め込まれた、自然科学の分野におけるウルシ研究の最前線、放射性炭素年代測定で年代の把握された漆を使用(あるいは付着)した重要資料の数々、そして浄法寺町の漆掻きの紹介映像で30分費やす。施工用具と技術の歴史的諸相、加飾技術のさまざま、漆とともにあった暮らしの歴史・民俗、外国へ輸出される漆器、琉球漆器からアイヌにおける威信財としての漆器、近代の漆器、最新の漆施工技術など、歴博らしい視野の広い内容。人文科学・自然科学の融合により行われた展示型共同研究「学際的研究による漆文化史の新構築」(平成25~27年度)の成果展。加飾技法の説明に、何気なく東博片輪車蒔絵螺鈿手箱(国宝・前期)や根津美術館秋野蒔絵手箱(重文)が並ぶ贅沢(後期は根津美宝相華平文袈裟箱、奈良博蓮唐草蒔絵経箱)。図録あり(300ページ、2500円)

 特集展示 楽器と漆
(7月11日~ 9月3日)

 URUSHI展にあわせて漆工の楽器を集めて展示。紀州藩第十代藩主徳川治宝収集の楽器コレクションから笙や篳篥、大阪麦酒会社創業者生田秀の能楽コレクションから鼓胴をどっと展示。

サントリー美術館
 国宝《浮線綾螺鈿蒔絵手箱》修理後初公開 神の宝の玉手箱
(5月31日~7月17日)

 修理完成した国宝・浮線綾螺鈿蒔絵手箱を軸点として、手箱の歴史や意匠の意味を実資料をもとに叙述しながら、「特別な手箱」(玉手箱)の存在した場を浮かび上がらせる。鎌倉時代の手箱として東博片輪車蒔絵螺鈿手箱(国宝)、出雲大社秋野鹿蒔絵手箱(国宝)が並ぶほか、明治から現代にかけて制作された絢爛豪華な手箱の優品の模造(どれも優れたできばえ)が並ぶさまは、玉手箱イメージを的確に伝えるもので展示効果が高い。化粧道具と呪術という観点から三重・四天王寺の薬師如来坐像および納入品(重文・承保4年〔1077〕)を、神の調度という観点から熊野速玉大社と熱田神宮の古神宝を選択して提示して、マジカルアイテムとしての玉手箱(日本民藝館の浦島絵巻も効いている)の意味をクローズアップする手法は挑戦的。毎度のことながら洗練された展示空間作りに感心。図録あり(208ページ、2500円)。

7月17日
奈良国立博物館
 特別展 源信 地獄・極楽への道
(7月15日~9月3日)

 『往生要集』の作者源信(942~1017)千年忌を記念して、源信の生涯の事蹟とともに、中世社会において受容された地獄・極楽の死後世界のイメージを、優れた絵画資料を多数集めて提示する。地獄絵では、聖衆来迎寺の六道絵15幅、東博地獄草紙、奈良博辟邪絵(以上全て8/6まで)、極楽図では当麻寺當麻曼荼羅(貞享本・重文)、金剛峯寺法華経・大般若経見返絵、来迎図では法華寺阿弥陀三尊及び童子像(~8/20)、知恩院阿弥陀聖衆来迎図(早来迎、~7/30)と国宝展状態。新長谷寺阿弥陀如来立像及び厨子(重文)は大型の厨子奥壁の極楽図と扉絵の聖衆が、彫刻の来迎形阿弥陀立像とハイブリッドに融合(展示は阿弥陀像を別置。図録に安置状況の図版あり)。阿弥陀による救済のイメージが凝縮した好例。彫刻では即成院二十五菩薩坐像(3駆づつ展示替え)、保安寺阿弥陀三尊像と奈良博地蔵・龍樹菩薩坐像を組み合わせて阿弥陀五尊像を再現。図録あり(328ページ、2300円)。

高野山霊宝館
 企画展 正智院の名宝
(7月15日~10月9日)
 正智院が兼務する善集院の本堂再建と本尊修理完成を記念して開かれる名宝展。正智院本尊阿弥陀三尊像が初公開。すでに報告があるが(岩田茂樹「高野山正智院の阿弥陀如来坐像」『鹿園雑集』5、2003)、1200年前後の運慶にごく近い慶派仏師の作例。報告や展示では脇侍の一具性については慎重な態度であるが、中尊像と観音像の風貌はよく似る。観音像の髻が平安後期風を丈高くした改変形であるのも過渡的。修理が施された正智院不動明王立像は、同時毘沙門天立像(重文)と対になるものと判明。本尊三尊像と組み合わされるとすれば、運慶周辺の同種の五尊像との関係が注意されるが、やや降るか。不動・毘沙門両像は今後奈良博寄託との由(住職ごあいさつに明記)。善集院本尊も中尊は鎌倉時代の阿弥陀像で、観音像は南北朝時代。仏画では普賢延命菩薩像、八字文殊曼荼羅図、紅玻瑠阿弥陀像、八宗論大日如来像(以上全て重文・鎌倉時代)、最古の四社明神像(鎌倉時代)、稚児大師像、狩場明神像、影向明神像(以上室町時代)と、重要作例がずらり。また近年の同寺聖教蔵の調査研究成果も反映され、鎌倉前期の正智院主道範関連資料や、各種版本(高野版・根来板・浄土板・宋版・高麗版・西大寺版等)や連歌資料、特殊な図像類も多数出陳。正智院発行による展示内容と共通する図録『高野山正智院の歴史と美術』あり(114ページ、2200円)。

7月26日
奈良文化財研究所平城宮跡資料館
 夏のこども展示 ナント!すてきな!?平城生活♪
(7月22日~9月3日)
 平城京出土資料によって、上級官吏(とよなりさま)・下級官吏(やかまろさん)の仕事や生活を対比的に提示。イラストを多用し、「しつちょうさんからのひとこと」で補足説明するなど、古代の役人ライフの理解を助けるための工夫をこらす。リーフレットあり(24ページ、無料)。

8月6日
香雪美術館
 悉有仏性-全てのものに仏が宿る- 佐藤辰美コレクション展Ⅱ
(7月15日~9月3日)

 佐藤辰美氏のコレクションのうち日本の宗教美術を2期に分たって公開(1期「摩滅の美。」・2期「祈りのかたち。」)。興味深い神像が多数展示されており、集中的に鑑賞。鑿目を全体にざっくりと残して髪・面貌・着衣を墨書きした持宝珠女神坐像(11c)や、みずらを結って蓋襠衣を纏い拱手し持物(手付きは笏だが…)を執る不思議な童子形神坐像(12c)、幅広の巾子の冠をかぶって面奥・体奥の分厚い古様な男神坐像(10c)、漆箔仕上げとする牛頭天王坐像(12c)など。様々な事情で社外へと出た数多くの神像が、巷間にはまだまだ残されている。コレクターがその価値を見逃さず重要資料をピックアップして留めただけでなく、展示を通じて情報の共有化をはかってくれたことで、今後の神像研究に資するところは大きい。ほか、仏像・仏画・仏具・懸仏・印仏も。図録あり(236ページ、2000円)。

8月12日
奈良国立博物館
 特別展 源信 地獄・極楽への道
(7月15日~9月3日)

 奈良で用事して、奈良博開館時間延長中とのことで夕方から鑑賞。展示替え後の再訪(前回訪問7/17)。見る機会の少ない極楽寺六道絵(重文)、禅林寺十界図(重文)、水尾弥勒堂十王図、東大寺知足院地蔵菩立像及び厨子(重文)をじっくり。金戒光明寺山越阿弥陀図・地獄極楽図屏風(重文)をごく間近で明るく賞できるありがたさ。極楽往生間違いなし。図録あり(328ページ、2300円)。

8月22日
奈良教育大学教育資料館
 展示企画 海を渡った文化-中国から日本へ-
(8月18日~8月22日)

 同大学大学院「地域と伝統文化」教育プログラムの「伝統文化発信法Ⅱ」講義の成果展。東吉野村龍泉寺阿弥陀如来坐像は針葉樹の一材から頭体及び脚部、両椀部を含んで一材より彫出する像高50.5㎝の像で,
10世紀と評価。同寺には平安時代前期の如来坐像(県指定)あり。ほか、唐時代の銅製鍍金の金剛力士立像(個人蔵)、東大寺執金剛神縁起絵巻(同大図書館蔵)など。最新の機器を活用した研究成果として、芳山二尊石仏南面像の3Dスキャン画像と唐招提寺伝薬師如来立像の対比や、郡山城石垣より出土した両面石仏(片面は地蔵十王像、もう片面は冥王像)の3Dプリンターによる石膏製出力作品も展示。図録あり(43ページ)。

東大寺ミュージアム
 東大寺大仏縁起絵巻(重文)特別公開
(上巻8月1日~8月20日 中巻8月22日~9月10日 下巻9月11日~9月30日)

 天文5年(1536)、東大寺僧祐全の勧進、後奈良天皇(上巻)・青蓮院宮尊鎮法親王(中巻)・西室公順(下巻)の詞書、絵は南都絵所のうち芝座の琳賢(及び芝助座藤勝)の手になる東大寺大仏縁起の、修理完成後初披露。うっかり上巻を見逃し残念(そばまで行ってたのに…)。中巻は巻頭から巻末まで全巻公開。明快で凜々しい顔貌表現や、彩色を主体とした仏菩薩の手慣れた描写など、室町時代南都絵所絵師の特徴を確認。図録なし。絵巻を載せた絵ハガキ配布。

奈良国立博物館
 特別展 源信 地獄・極楽への道
(7月15日~9月3日)

 3度目。展示替えされた作品を鑑賞。西新館第2室、縦長の部屋の一番奥、西面(!)するケースに、有志八幡講阿弥陀聖衆来迎図(国宝)を配置。象徴的な空間に象徴的な作品が嵌まって、展示の完成。振り返れば極楽浄土(當麻曼荼羅)。鑑賞ならぬ観想の場が構築され、極楽往生間違いなし。図録あり(328ページ、2300円)。
 

9月2日
出光美術館
 祈りのかたち-仏教美術入門-
(7月25日~9月3日)

 終了間際に滑り込み。館蔵の仏教美術の優品をガンダーラ仏・北魏仏から近世の禅画まで、どっとお蔵出し。修理された永久寺伝来の真言八祖行状図(保延2年〈1136〉)をじっくり鑑賞。鎌倉時代の持国天・増長天立像も永久寺伝来。高野山鎮守天野社のある上天野地区の念仏講旧蔵の六道・十王図と久しぶりに対面。ほか、平安末~鎌倉初期とされる不動明王二童子図の大幅は根来寺旧蔵とのこと。知りませんでした。図録あり(146ページ、2100円)。別刷りの真言八祖行状図図版(大きく明るい)がおまけについてきて有益。
 その後銀座まで歩いて観世能楽堂で能「道成寺」鑑賞(松の会主催)。面は近江女と般若(多分)。

9月4日
羽黒山・出羽三山歴史博物館・いでは文化記念館・慈恩寺
 黒川能保存会での調査を終えてから、古社寺参拝。羽黒山五重塔(旧宝塔山瀧水寺の本堂で総高29.4m,
南北朝時代、国宝)、羽黒山三神合祭殿(文政元年(1818)建立、重要文化財、雄大な茅葺き屋根)、その境内の出羽三山歴史博物館で羽黒鏡鑑賞、いでは文化記念館で「摩訶不思議!出羽三山展」鑑賞、慈恩寺境内散策して、日帰り。

9月23日
東京藝術大学大学美術館
 シルクロード特別企画展 素心伝心
-クローン文化財 失われた刻の再生-
(9月23日~10月26日)

 午後からの日本宗教文献調査学合同研究集会(於慶應大)のシンポ登壇のため東京入り。駆け足でひと巡り鑑賞。最新技術と手業を組み合わせた芸大製レプリカをクローン文化財と称されている由。再現性高くさすがの技術水準。図録あり(144ページ、1500円)

10月15日
京都国立博物館
 開館120周年記念特別展覧会 国宝
(10月3日~11月26日)
 
開館120周年、古社寺保存法120周年に、文化財保護制度の理念を改めて広く国民が共有するための「国宝」オンリー展。京博収蔵品及びその他国立館の資料をフル活用しながらオーソドックスに資料の分野別に代表的作品を集め、分野ごとに味付けしてを全体を構成。会場大混雑で会期も4期に分かれて展示を作る方も見る方も大変。図録あり(502ページ、3000円)

10月23日
東寺【教王護国寺】宝物館
 東寺観智院の歴史と美術-高僧と名宝-
(9月20日~11月25日)

 台風一過。用事の合間に立ち寄り。観智院客殿(国宝)修理完成記念展。東宝記(国宝)や杲宝の書状、唐時代の蘇悉地儀軌契印図(重文)、十一面観音像(重文)、長沢芦雪筆唐人物図屏風など。リーフレット(8ページ)あり。

10月26日
東京藝術大学大学美術館
 シルクロード特別企画展 素心伝心
-クローン文化財 失われた刻の再生-
(9月23日~10月26日)

 最新技術と手業を組み合わせた芸大製文化財レプリカである「クローン文化財」の展示。法隆寺金堂釈迦三尊像の復元は、三次元計測したデータ(ただし背面側は未計測)をもとに3Dプリンターで出力した原型から蝋型を作成し鋳造する。敦煌莫高窟第57窟やキジル石窟航海者窟の再現や、バーミヤン東大仏仏ガン天上壁画の再現など、精度の高い複製が文化財の維持や継承に活用できる場面は多くあり、まさに制作者養成を行う芸大らしいプロジェクト。特許取得技術との由。和歌山で高校生大学生と文化財レプリカ作りを行っている立場からは、精度の高さを追求していく当然の方向性とともに、手軽に身近に活用できる低コストのレプリカ作成方法の模索も推し進めて欲しい。会場内の香りや音の演出や、釈迦三尊両脇に垂らしたスクリーンに投影する光背銘を使ったインスタレーションなどは、レプリカを活用した新たな空間芸術の試みということのよう。図録あり(144ページ、1500円)

東京国立博物館
 特別展 運慶
(9月26日~11月26日)

 興福寺中金堂再建記念として運慶の仏像を集約するとともに、父康慶及び子息・周辺仏師の仏像を一所で展観する意欲的な展示。十重二十重の大観衆。長岳寺阿弥陀三尊像(中尊の光背は未出陳)が数十年ぶりに寺外で公開されている間(~10/29)に駆け込んで無事鑑賞。運慶芸術の数々を間近で堪能するとともに、円成寺大日如来坐像の中の康慶、中金堂四天王立像(元南円堂所在)の中の運慶、金剛峯寺八大童子像の清新さと解放感、東大寺重源坐像の中の古典などなど、かたちの中に残された痕跡にほの見える歴史情報に思いを致す。展覧会開催に合わせて行われたCT撮影の成果も紹介され、運慶研究の進展に寄与。六波羅蜜寺地蔵菩薩坐像の像内に詰め込まれた大量の納入品は、いつの日か解体修理の時が来たとき、康慶・運慶の歴史的位相をよりはっきりと定める画期的な情報を提供するものであろう。鑑賞しながら、運慶研究の盛り上がりに乗じて私も論文書かねばっ!と胸にぽっと火を灯してもらう。図録あり(322ページ、3000円)。再訪を期す。

栃木県立博物館

 特別企画展 中世宇都宮氏-頼朝・尊氏・秀吉を支えた名族-
(9月16日~10月29日)

 宇都宮市に建つ県立博物館の開館35周年記念として、宇都宮を本拠とした武士団宇都宮氏の中世史を、多様な資料で叙述する。中世文書を丁寧に多数集めて展示の骨子を形成するとともに、その歴史叙述の上で知恩院法然上人絵伝(国宝)、光明寺當麻曼荼羅縁起(国宝)、清浄光寺一遍聖絵(国宝)、専修寺善信聖人親鸞伝絵(重文)など絵画の優品を全国より集め、また肖像画研究の上で今後重要視されることが確実である新発見の足利尊氏像(個人像)が提示されるなど、絵画資料が充実。建長5年(1253)の岩谷寺薬師如来立像、建長4年の蔵福寺阿弥陀三尊像、弘長元年(1261)の西明寺千手観音菩薩立像、木幡神社の馬頭観音坐像など、栃木を代表する鎌倉時代彫像を間近に鑑賞。京都府大念寺の阿弥陀如来立像と納入品を鑑賞できたのもありがたい。図録あり(240ページ・2000円)。

10月31日
和歌山県立紀伊風土記の丘
 特別展 道が織りなす旅と文化
(9月30日~11月26日)
 世界遺産紀伊山地の霊場と参詣道の資産追加登録を記念して、旅する宗教者を通じて流入し、また伝播した紀伊国の信仰文化の諸相を、民俗学的観点から提示する。熊野信仰の全国への伝播としては、高知県物部村のいざなぎ流の御幣や仮面、愛知県大入花祭の資料や曽川花祭の仮面などを集める。西国巡礼では、三十三度行者の御背板(笈に西国三十三所の本尊像や仏具を入れて祭壇として使用するもの)を集めるほか、粉河寺や道成寺の中世~近世の巡礼札が初公開。江戸時代に作られた迦楼羅尊王のミイラや、稲亭物怪録(広島県立歴史民俗資料館)、化物尽絵巻・百鬼夜行絵巻など妖怪ものもあり。図録あり(124ページ・1500円)。

11月1日
鹿児島県歴史史料センター黎明館
 企画特別展 かごしまの仏たち―守り伝える祈りの造形―
(9月28日~11月5日)

 廃仏毀釈により大きなダメージを受けながらも、地域の中で守り継がれてきた鹿児島県内の仏像を一所に集めて紹介する。湧水町二渡自治会菩薩半跏像(県指定)は平安時代後期の片足を垂らした菩薩像として貴重な事例。薩摩川内市教育委員会保管の阿弥陀三尊像は鎌倉時代前期ごろの新資料。仏師快成工房作との評価。弘治3年(1557)に深賢快重作の姶良市蔵の釈迦如来坐像や、永正3年(1506)快扶作の地蔵菩薩立像・毘沙門天立像・多聞天立像は、室町時代の在銘の大作。快扶の作例は正面観ではまとまりよいが、側面では立体のつながりに破綻が生じていて、伝統的な仏師集団とは一線を画して村落の需要に応じた造仏僧か。興味深い事例。霧島市松下美術館の漆箔仕上げの男神像や和式の鎧を纏った男神像は、伝来不詳ながら神像研究上注目すべき作例。同館には去年個人的に調査でうかがったが、コレクションにはまだまだ興味深い作例あり。一部でも紹介されてうれしい。展示の最後は新納忠之介関連資料で、鹿児島市立美術館の金剛峯寺八大童子像頭部石膏型などのコレクションを展示。写真パネルも多数用意し、飛鳥時代から近代までの鹿児島県宗教彫刻史を一望する極めて貴重な機会。図録あり(150ページ、1700円)。

九州国立博物館
 大分県国東宇佐 六郷満山展-神と仏と鬼の郷- 
(9月13日~11月5日)

 六郷満山開山1300年記念として、大分県六郷満山周辺寺社に伝わる仏像・神像を中心とした文化財を集め、その特徴的な信仰の様相を紹介する。天福寺奥院の多数の仏像群の中から奈良時代造像の可能性のある如来立像と菩薩立像、富貴寺の阿弥陀三尊像、真木大堂不動三尊のうち両脇侍立像、瑠璃光寺阿弥陀如来立像、もと小両子岩屋安置の阿弥陀如来立像、無動寺薬師如来坐像と大きな仏像が文化交流展の展示室のそこかしこに林立。八幡奈多宮の神像群や応保2年(1162)陣道面、富貴寺の久安3年(1147)銘追儺面や菩薩面も仮面研究上、重要な資料。図録あり(112ページ、1500円)。

 特別展 新・桃山展-大航海時代の日本美術-
(10月14日~11月26日)

 桃山時代美術史を、信長・秀吉・家康の治世における諸外国との政治・文化・経済の交流史という観点から構成して作品を集める。東大史料編纂所倭寇図巻、神戸市博聖フランシスコ・ザビエル像、栖雲寺十字架奉持マニ像、三井記念美術館聚楽第図屏風、宮内庁三の丸尚蔵館唐獅子図屏風(狩野永徳)、南蛮人渡来図屏風、高台寺聖母マリア像刺繍壁掛、京都大学総合博物館マリア十五玄義図、メキシコ・ソウマヤ美術館大洪水図屏風、等々、重要作例がてんこ盛り。日本の屏風が直接影響を与えて東南アジアや南アメリカで作られたBIONBOの日本国内での公開が目玉。図録あり(216ページ、2200円)。

11月6日
高野山霊宝館
 第38回高野山大宝蔵展 高野山の名宝-平家物語の時代と高野山-
(10月14日~12月3日)

 平家物語巻一〇「高野巻」にちなんだ関連資料を選んで展示。平清盛発願とされる縦横4mの巨大な両界曼荼羅(血曼荼羅・重文)の原本公開。唐時代の胎蔵界板彫曼荼羅2面(重文)のうち把手を削り取った方の裏面にも清盛や平家一門の名が記される。丹生高野四社明神関連では、問答講本尊の弘法大師・丹生・高野明神像(重文)、天野院主行勝所持と伝わる五鈷杵・三鈷杵(蓮華定院蔵)、行勝弟子貞暁が伽藍御社に奉納した梵字懸仏、そして壇上伽藍不動堂の本尊不動明王坐像(重文)が、運慶作八大童子像の出張中に本館で公開。これも行勝関連資料。ほか後白河法皇御手印起請文(宝簡集巻三三、国宝)、俊乗房重源施置文写(続宝簡集巻八、国宝)など。修理完成した五坊寂静院の不動三童子像(重文)も公開。図録なし。

11月9日
有田市郷土資料館
 特別展 念仏行者徳本-200回忌記念-
(10月14日~12月10日)

 江戸時代後期に全国で熱狂的に信仰された紀伊国出身の浄土宗僧徳本について、和歌山県内の博物館で初めて開催された本格的な徳本展。西法寺徳本上人坐像、誕生院徳本上人絵伝、往生寺徳本上人縁起絵巻のほか、さまざまな種類の六字名号も集める。地域に残る資料によって徳本を丁寧に浮かび上がらせる好展示で、近世仏教史の観点からも重要な作業。さらに新資料が見いだされそう。図録あり(56ページ、500円)。

11月10日
龍谷ミュージアム
 特別展 地獄絵ワンダーランド
(9月23日~11月12日)

 中世~現代の地獄表現の諸相を一望する。近世において受容されたゆるくかわいく魅力的な地獄絵をクローズアップするとともに、そうした「ゆるい」地獄絵の成立過程を、中世以来の地獄表現の展開の中に系統づける。壬生寺十王図や當麻寺中之坊十王図から、宋・元の十王図の日本での写しのあり方を確認。當麻寺の宿院仏師作の十王像(うち3軀)や東光寺の木喰明満作の十王像も興味深く鑑賞。図録あり(226ページ、2000円)。

京都国立博物館
 開館120周年記念特別展覧会 国宝
(10月3日~11月26日)

 2回目。夜間開館。仁和寺北院旧安置の檀像薬師如来坐像をじっくりと鑑賞。この極小の像と向かい合う、間もなく帰る巨大な金剛寺大日如来坐像も、改めて新鮮な目で鑑賞。曼殊院の不動明王像(黄不動)も間近でありがたく拝見。夜も人多い。

11月11日
東京国立博物館
 特別展 運慶
(9月26日~11月26日)

 2回目。長岳寺阿弥陀三尊像のうち中尊と観音像が退き、勢至菩薩像が居残り。代わって瑞林寺地蔵菩薩坐像がお出まし。正面は十重二十重の人垣であるので、横に回って長岳寺像と瑞林寺像の側面観を比較。中金堂四天王像(元南円堂安置)も見納め。これとの比較で検証した東大寺持国天像についての拙稿はすっかり埋没。書いた本人が15年放置すればそりゃそうなる。そろそろ再始動。

特集 室町時代のやまと絵-絵師と作品-
(10月24日~12月3日)

 室町時代における絵画のジャンルとしての「やまと絵」に注目して、東博収蔵の優品を並べる。伝土佐光重筆浜松図屏風、清凉寺融通念仏縁起絵巻、伝土佐光信筆桃井直詮など。図録あり(72ページ、1000円)。所収の土屋貴裕「室町時代のやまと絵をめぐる問題」における「やまと絵とは何か」という問いと答えの思考の往還が興味深い。言葉にした途端につるりと逃げ出す感覚。

国立能楽堂資料展示室
 特別展 備前池田家伝来 野﨑家能楽コレクション
(10月4日~12月15日)

 岡山県・野﨑家塩業歴史館に収蔵される、備前池田家伝来能資料を公開。大正期の売り立て資料を、池田家との深い関わりのなかで野﨑家が入手、秘蔵してきたもの。近世の大名面の優品を壁一面にずらりと並べて圧巻。小獅子(悪鬼)の作者「越前国/川瀬勝三郎/光廣(花押)」銘は、越前出目家初代の可能性もあるが不明。ほか天下一友閑の作面も多数。能装束では、ちょうど上演される「鐘巻」に合わせて(多分)白地鱗文様摺箔を出陳。図録あり(120ページ、2500円)。

国立能楽堂
 特別企画公演 黒川能
(11月10日~11月11日)

 三部立てのうち、第二部の能「木曾願書」、狂言「こんかい」、能「鐘巻」を鑑賞。鐘巻はシテの上野由部太夫の気合い充実の名演に感動。「鐘巻」をもとに改作された「道成寺」ではよく分からなかった所作の一つ一つにきちんと意味があることを実感。その詞書における日高平野を押さえた湯川氏の館があった小松原の強調、道成寺鎮守〈明神〉の組み込み(住吉明神)、完成した道成寺創建縁起、そして改変し完成した道成寺説話、「造立さって七百歳」の基準点は明示されないが15世紀成立を暗示することなど、地域史研究の立場から興味深いことばかりであるが、それらの膨大な情報が、きちんと一つの舞のストーリーとして成立していて破綻がない。次は黒川の現地で見たい!

11月13日
奈良国立博物館
 第69回 正倉院展
(10月28日~11月13日)

 最終日に滑り込み。お昼に重なったからか、並ばず入館できる。今年は緑瑠璃十二曲長坏がメイン。羊木﨟纈屏風と﨟蜜、﨟蜜袋を並べ、楽器では尺八2管と箜篌の残欠と復元品。会場には尺八の音が響く。伎楽面と錫杖をじっくりと鑑賞しておく。図録あり(152ページ、1200円)。なら仏像館では室生寺の弥勒菩薩立像、釈迦如来坐像がさらりと並んで豪華。

天理大学附属天理参考館
 特別展 天理図書館 古典の至宝-新善本叢書刊行記念-
(9月16日~11月27日)

 天理図書館に収蔵される古典籍の善本叢書刊行を記念して、対象資料を3期に分けて展示。日本書紀神代巻(国宝)、古語拾遺の暦仁元年(1238)本(重文)、石清水八幡宮権別当田中宗清願文案(重文)、源氏物語池田本、奈良絵本「鼠の草子絵巻」「熊野の本地」(伝十市遠忠筆)、ほか井原西鶴や松尾芭蕉関連資料など。奈良絵本「ひだか川」は第2期(~11/6)の展示だった。しまった。図録あり(64ページ、1000円)。

11月15日
大津市歴史博物館
 遷都1350年記念企画展 大津の都と白鳳寺院
(10月7日~11月19日)

 天智天皇6年(667)に建都された大津京の姿と仏教との深い関わりを、主に出土した瓦と塑像断片から紹介するとともに、当該時期とその前後に渡る日本・中国・朝鮮半島の塼仏・金銅仏の優品を集約して、白鳳期仏教美術の特徴を浮かび上がらせる。崇福寺・南滋賀町廃寺・穴太廃寺等の出土資料とともに、塑像・塼仏の比較のため川原寺・山田寺・橘寺・二光寺廃寺・夏見廃寺出土資料等もずらり紹介。金銅仏では、注目の妙傳寺如意輪観音半跏像、東博小倉コレクションの菩薩半跏像、四天王寺の誕生釈迦仏など朝鮮半島の作例、東京芸大菩薩立像、焼損痕のある四天王寺菩薩半跏像、岡寺菩薩半跏像、那智経塚出土の金銅仏群などの白鳳時代の作例がずらり。感嘆。図録あり(160ページ、1800円)。

11月23日
茶道資料館
 特別展 仏教儀礼と茶―仙薬からはじまった―
(10月3日~12月3日)

 仙薬としての茶の役割とそれが受容される仏教儀礼の場に着目して資料を集める。星宿に除災や長寿を祈る北斗法では祭壇上に茶と菓が献じられることを北斗曼荼羅や聖教類から提示し、また中国・天台山における羅漢信仰と山中の石橋での羅漢への呈茶について宋元代のものを初めとする羅漢図や古記録から示すなど、中国における「茶」のパワーの重視とその文化の流入期のようす、信仰との関わりについて認識を新たにする。東京国立博物館三宝絵詞(国宝)、大徳寺五百羅漢図(重文)、個人像上堂図、東福寺参天台五臺山記(重文)など。図録あり(116ページ、2160円)。

11月30日
島根県立古代出雲歴史博物館
 特別展 島根の仏像-平安時代のほとけ・人・祈り-
(10月20日~12月4日)

 島根県内に伝来する特色ある平安時代彫像を集約して公開する。清水寺十一面観音立像、萬福寺(大寺薬師)薬師如来坐像・四天王立像、佛谷寺薬師如来坐像・菩薩立像、禅定寺聖観音立像・阿弥陀三尊像などの9~10世紀彫像を極力地域史の中に位置づけつつ、曖昧な「出雲様式」の枠組みに押し込めずに関連諸像との比較の中で特徴を抽出する態度を徹底。新資料として、雲南市長安寺の引き締まった体躯の十一面観音坐像と、古様な髻と華麗な冠繒(右手分は後補)が特徴の菩薩坐像、出雲市日藏寺の像の大半を一木より木取りする十一面観音立像、華麗な宝冠を体幹部と同木から彫出する大日如来坐像など、近年の着実な調査成果も提示。金剛寺馬頭観音坐像、華蔵寺薬師如来坐像など平安時代後期彫像も多数。ほか神像では、高い髻と襟を立てた衣の萬福寺老僧神坐像(10~11c)と拱手した法体の櫛代賀姫神社僧形神坐像がともに法量も大きく重要な作例。図録あり(190ページ、1944円)。側面や背面の図版も極力掲載していて重要な研究資料となるもの。
 帰りに安来清水寺に立ち寄ってご参拝。

12月10日
奈良県立万葉文化館
 特別展 日本文化の源流-いまに続く芸能-
(10月28日~12月10日)

 延岡市内藤記念館の能面展示を核として、大和国で育まれた伎楽・舞楽・猿楽、あるいは追儺の諸芸能を版本と複製資料、現代日本画を活用して紹介。映像展示として「長谷寺だだ押し」「奈良豆比古神社の翁舞」あり。奈良の猿楽資料としては、坂戸座(金剛座)から高安座に伝領された可能性のある父尉・翁・三番叟と関連文書、談山神社の翁と悪尉(図録未掲載)にとどまる。残念。図録あり(143ページ、1500円)。

1月
2月
3月


観仏三昧