平成22(2010)年度「展覧会・文化財を見てきました。

4月11日
奈良国立博物館
特別展 平城遷都1300年記念 大遣唐使展
(4月3日~6月20日)
 遣唐使をテーマとする初めての展覧会。遣唐使の時代的背景とともに歴史的なトピックスを多く設定し、遣唐使による
将来品を多数集めながら、文化の伝播と移植、そしてその日本的展開にまで射程を納める意欲的な内容。なんといっ
ても、普段見たくても見られない資料が見られることは展覧会の喜びである。ペンシルバニア大学博物館の菩薩立像と
薬師寺聖観音菩薩立像の並ぶ空間は、とても贅沢。並べてはじめて分かるその共通点と相違点を、だれもが共有でき
ることの尊さはなにごとにも代え難い。フィラデルフィア美術館の菩薩半跏像の優れた造形に立ちすくむ(実際にはぐる
ぐる見てましたが)。写真図版では見慣れたその印象よりも、実物はもっとシャープで、もっと立体的で、もっと魅力的で
あることを知ることができた。ペンシルバニア大学とかフィラデルフィア美術館とか、ひょっとすると生涯訪れることがな
いだけに、「今日見られた」ことを素直に喜びたい。ボストン美術館の吉備大臣入唐絵巻も同様。新出の安祥寺十一面
観音立像は本館に展示され、榧材による造像であることの彫刻史的意義を強く打ち出されている。西新館の耐震補強
工事のため本館も特別展会場となっていて、新鮮な感覚で鑑賞。ただ、展示スペースや導線などで苦労の跡がそこか
しこに。これから来館者が増えると、ちょっと大変かも。図録あり(392ページ、2500円)。

4月25日
府南寺
ここしばらく、子と遊んであげられなかったので、子の要望で鈴鹿サーキットの遊園地へ。帰り際、道沿いの府南寺(鈴
鹿市国府)に立ち寄る。鎌倉時代~南北朝時代の仁王像(重要文化財)がお目当て。門型の収蔵庫に安置され、ガラ
ス越しでやや見えにくい。阿形像が長大な金剛杵を抱え持ち、吽形像が振り上げた右手の第1・2指を捻じて右足つま
先を浮かせることなど、東大寺南大門仁王像の図像を踏襲したといえる珍しい作例。

5月2日・3日
大峯山寺戸開け式
 奈良県立橿原考古学研究所長・菅谷大先達に率いられ、学峯講の一員として、初の峯入り。女人結界門をくぐり、一
ノ瀬茶屋、一本松茶屋、洞辻茶屋と超えて、最初の行場、鐘掛岩をよじ登る。命の重さを自らの手に感じる。西の覗き
では、勇んで新客の先頭きって縄を肩にかけたものの、先が断崖となった斜め斜面にうつぶせになった途端、あまりに
尋常でない状況と光景に体が防衛反応を起こす。前で合掌しろと言われ、こわごわようやく手を岩から放す。断崖から
半身を乗り出し、山の先達の問いかけの後、縄が突然ずるりとゆるめられる。心の底からの悲鳴。山上に到着し、龍
泉院の宿坊に荷物をおいて、裏行場へ。胎内くぐりや蟻の門渡りなどを超え、平等岩へ。断崖絶壁の岩の頂点を、自
らの腕で体を支えてぐるりと回る。 裏行場を巡ると、大峰山寺本堂のちょうど裏に出てくる。湧出岩にも参拝。宿坊に
戻り、夕食。電灯もない廊下の脇の狭い屋根裏に8人がすし詰めになって就寝。夜中2時頃起き出し、あまりの寒さに
持ってきた全部の服を着込んで戸開け式へ。3時から鍵渡し式が行われ、護持院より講(岩講など8つあり、それぞれ
修験者の集団)に鍵が渡され、般若心経など唱える。渡された鍵(3つ)を肩車された人物が掲げ左右にふりながら境
内を練り歩く。いよいよ戸が開けられ、本堂内になだれ込む。内陣へある程度の人数ずつ入れられ、本尊(秘仏)参拝
し、堂裏の秘密の行者(役行者像)を拝観。等身大を少し超える、大きな像。中世に遡るか。般若心経を唱え、さらにも
う一体の行者像前でも般若心経1巻。山上を5時30分に出立し、本堂の梵鐘(奈良時代)を見て、下山しはじめる。真
言宗系修験における聖地であった小笹宿で般若心経1巻。ここは沢があり、水が豊富。しばらく歩いて女人結界門を出
て、大普賢岳に登山。山頂ではるか弥山への稜線や、熊野の山並みを望んで、いっきに山を降り笙の窟に11時ごろ到
着。断崖絶壁の最下部がえぐれ、大きな空間がある。般若心経1巻。湧き水で喉をうるおし、発掘時のお話をいろいろ
聞き、もとここに安置されていた銅造不動明王立像(天ケ瀬組所蔵、県指定文化財)の史的位置づけの大きさを実感。
休憩後、和佐又へ下山。和佐又ヒュッテで、春の香りに満ちあふれた山菜うどんをおいしく食べ、帰途につく。

5月3日
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
平城遷都1300年記念春季特別展 大唐皇帝陵展
(4月24日~6月20日)
 いかねばと思っていた大唐皇帝陵展を鑑賞。恵陵出土の跪拝俑をじっくりと見る。彩色壁画も、よく持ってこれたもの
だと感謝。第一室の恵陵の青龍・白虎の巨大模写も大迫力。普段の常設展示室を1室分撤去して、展示空間を広げて
おり見応えがある。常設展示室の弾力的運用は、これからもテーマによってぜひ継続してもらえるとありがたい(派生
する諸問題もよくわかるけれど)。図録あり(1500円)。

5月9日
諏訪大社下社秋宮
 前日、午後からの展示解説を終えて館を飛び出し、7年に一度の諏訪大社御柱祭で賑わう諏訪へと向かう。6時間
かかって夜分遅く宿に着き、朝は下社秋宮へ。各所で交通封鎖され、迷いながら市中の駐車場へ車をとめ、神社まで
歩く。事前のリサーチ不足で、その前日に御柱が建てられていたのは春宮で、秋宮は10日に建てる由。ただ参道や境
内では朝から大規模なパレードや芸能の奉納がなされていて賑やか。前日、春宮御柱を立てる際に事故があって死亡
者もでたことは、後になって知る。8日、諏訪入りした午後10時ごろになっても、多数の氏子が神社付近を歩いていた
が、これは事故によってスケジュールがずれこんだためであったもよう。子の要望で、参道の諏訪湖オルゴール博物館
奏鳴館に立ち寄り、展示された古いオルゴールを眺める。要人来訪とやらで、たまたま実物の演奏が行われ始めたの
で、再入場しいくつかを聞く。ラッキー。

サンリツ服部美術館
特別展 祈りの時代 仏さまの美術―諏訪市の文化財を中心に―
(4月17日~5月16日)
 諏訪市内の仏教美術の優品を一望に展観する初めての展覧会。佛法紹隆寺の不動明王立像は、像高42.0センチの
小像ながら、鎌倉時代初期の慶派仏師の手になる優れた1躯。X線撮影で像内に月輪形銘札の存在が確認されてお
り、運慶作とする見解がある。確かに晩年期運慶の作風の範疇にあることを実感する(実作者が誰かは別問題)。か
つて諏訪大社上社神宮寺普賢堂に安置されていた、善光寺の不動明王立像、毘沙門天立像は、それぞれ鎌倉時代
末頃の造像で、等身をすこし超える大きさで迫力がある。貞松院不動明王立像・毘沙門天立像も鎌倉時代前期の慶派
の作。諏訪の鎌倉時代彫刻の水準の高さを知ることができ、有益。また明治の神仏分離で移動した仏像の追跡があ
る程度できることも確認し、個人的に興味深い。仏画では甲立寺不動明王二童子像が、鎌倉時代の優品。教念寺羅
漢像二幅も類例の少ない十六羅漢像の古例(重文)。図録あり(72ページ、1900円)。

諏訪高島城天守閣
 横を通ったので立ち寄っておく。昭和45年再建の天守内は、展示施設となっている。古文書、鎧など。パネル展示で
「戦国時代の諏訪」を開催中。同名の図録(12ページ・100円)購入。

諏訪市博物館
企画展 諏訪信仰と御柱祭―御柱を支え続けた人々の時代絵巻―
(3月16日~6月20日)
 御柱祭にあわせた展示。御柱祭関連の資料は、案外少ないのか、展示資料に苦労している雰囲気。古文書は別紙
で全て釈文がつくが、美術工芸の資料はあっさり。目玉は諏訪社遊楽図屏風で、江戸時代前期頃に描かれた諏訪社
上社・下社の景観図(個人蔵)。景観年代は不明。大祝家など諏訪社の支配構造を初めて知り、新鮮な興味を抱く。企
画展図録はないが、過去に発行された『諏訪社遊楽図屏風』(1000円)を購入。常設展示には上社神宮寺旧蔵の五智
如来坐像(四仏は江戸時代初期)を展示。

諏訪大社上社本宮
 博物館からてくてく歩いて、上社本宮へ。御柱の大きさを実感。社殿(重文)参拝し、境内の宝物殿も覗いておく。上社
本宮脇には、旧神宮寺である法華寺があるが、近年の放火による火災で鎌倉時代後期造像の本尊釈迦三尊像は焼
失している。残念。上社本宮神域内にあった法華経を収めた鉄塔は、市内温泉寺に現存。諏訪社の中世史は、かなり
おもしろそう。後ろ髪ひかれながら、帰途につく。

5月10日
法隆寺大宝蔵殿
法隆寺秘宝展―仏像とその背景―
(3月20日~6月30日)
 大学での講義を終え、法隆寺へ立ち寄る。春秋恒例の秘宝展、今回は仏像特集。夢殿御前立の観音菩薩立像(重
文)は平安時代中期の等身像。ジダが細く伸び穴を穿たない形状は独特。同寺の弥勒菩薩坐像(重文)と共通点あり。
これまで拝観機会のなかった小仏も多く、飛鳥時代の金銅仏や押出仏から円空仏まで、バリエーション豊富。仏画も、
星曼荼羅(重文・平安)、法華曼荼羅(重文・平安)、孔雀明王像(重文・鎌倉)、北辰妙見像(鎌倉)などなど。その他、
鏡や仏具など工芸品など、全66件。施設の構造上、ライティングに難があるのは、いたしかたなし。見応えたっぷりの
展示で、西院伽藍や大宝蔵院とあわせて見れば、日本彫刻史の集中講義状態。図録なし。夢殿にも足を伸ばし、こち
らはライティングされてはっきり拝めるようになった救世観音立像(国宝・飛鳥時代)で締める。贅沢。

5月17日
石清水八幡宮
「篝火御影」初公開特別展
(5月9日~5月23日)
 新たに発見され修理が施された篝火御影を初公開。配布された資料によれば、旧表具墨書に永享3年(1431)に石
清水八幡宮大乗院へ寄進した銘があり(大乗院は叡尊開山)、男山考古録に「(行教)御自筆の篝火御影の壱軸等什
物とせり、此神影一軸ハ、敵国降伏祈祷の時に懸奉と云」とあるものと想定されている。画面中央に円頂相で右手に
剣、左手に印を持った倚像、その前方両側に8人の神、下方に燃えさかる火、上方中央に樹木、それに重なるように
龍、上方右に六臂の神に異国の神が征伐され、左に5~6人の兵士がいる場面が描かれる。全て元~明風が顕著。
本来は道教の神々を描いたもののようだが、詳細は不明。ほか、銀造聖徳太子倚像(鎌倉か)、異国襲来祈祷注録
(重文)、八幡愚童訓(重文)、石清水八幡宮縁起(重文)など。

5月24日
春日大社宝物殿
平城遷都1300年記念 平安の正倉院Ⅰ―春日大社神殿の秘宝―
(4月1日~7月19日)
 境内の夫婦大国社の御前立神像特別拝観(4月25日~5月25日)を目指して春日大社へ。本殿参拝ののち、夫婦大
国社へ。ごく新しい大黒天像のよう。宝物殿で古神宝の数々を拝観。

元興寺文化財収蔵庫
平城遷都1300年記念企画展 元興寺コレクション―泰圓・泰善二代の軌跡―
(5月1日~5月31日)
 近代元興寺を復興した辻村泰圓・泰善の活動の軌跡を、関わったアジア諸国の宗教文化を示すコレクションとともに
展示。宗教民俗学、という感じ。元興寺文化財研究所の活動のいしずえを広くアピールしようとする内容。リーフレット
あり(4ページ)。

6月1日
奈良文化財研究所飛鳥資料館
キトラ古墳壁画四神
(4月16日~6月13日)
 翌日の兄の結婚式の準備をしに実家へ帰り、少し時間があったのでちょうどよいと、キトラ古墳壁画四神特別公開(5
/15~6/13)を見ておくことに。降り出した雨の影響もあったのか、待ち時間0分で、壁画のまわりも数人程度の滞留。
よく見られてラッキー。下絵をへら描きで施しているように、基本的にはフリーハンドではない、生真面目な絵という印
象。配布されている「2010キトラBOOK」は読みやすく、キトラ古墳発掘の流れがわかってけっこう便利。壁画公開以外
は、パネルと複製による展示。図録(45ページ・1000円)をそのままパネル展にした感じで、展示手法にもう一工夫あっ
てもよかったかも。

奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
平城遷都1300年記念春季特別展 大唐皇帝陵展
(4月24日~6月20日)
 キトラ古墳の壁画を見た後に、唐代の壁画をじっくりとみるため、再訪。李ヨウ墓壁画のうち馬球図は、生動感・躍動
感のある線描のスピードに圧倒される。細部の緻密さ・厳密さを強く要求されない制作環境であったのかとも思われる
が、キトラ古墳壁画の生真面目で謹直な線描と対比的である。それにしても、日中の一級の壁画古墳の線描の違いを
近隣の二館で比較できるなんて、奇跡的。図録あり(200頁、1500円)。

6月12日
吹田市立博物館
実験展示 さわる 五感の挑戦 PART5
(6月12日~7月4日)
 「見る」だけでない、博物館の楽しみ方の可能性を提示。見て、触って、鳴らして聞き、匂いをかぐなど、五感で資料を
感じるという試み。太鼓や笛、琴、琵琶、世界の民族楽器などの楽器類、仏像のレプリカ、民族衣装、郷土玩具、仮面
など。初日の午後で、まだ琴や三味線を鳴らす準備が整っていなかったようで少し残念。このような展示の試みを行っ
て下さることで、「博物館資料を触るということ」についていろいろと考える足がかりも得られる。私見としては、道具を道
具としての文脈の中で触れてみることで、資料を「見る」「読む」ことで得られる情報と、使用経験とが合わさって、より深
い理解を得られるはず、と考える。例えば第一次調査者としての学芸員(研究者)は、資料の重さや、質感や、匂いを
も、情報として獲得している。ただそれらの情報は、資料の保存という問題から、フリーに触れて獲得してもらうことに
は、やはり躊躇をおぼえる。ここに、博物館で資料に触ることへの、「バリアー」がある。しかしその問題は、まさしく資料
を守るためのバリアーであるだけに、開放すればよいというレベルで、単純に解決を図れない。 本展における試みが
示すように、触れることは楽しい。それでも、触れることの目的を「楽しさ」においては、博物館の主たる役割である資料
保存との整合がつかない。それゆえに博物館における触ることのできる展示は、「触ることでしか得られない情報があ
る」という方向づけを明確にする必要があるのではないか。視覚障害者に対する博物館・美術館のバリアフリーも、こう
した問題意識の中で改善を図れるのではないだろうか。触って楽しむのではなく、触って知るということである。そしてそ
の知こそが「楽しさ」の源泉である。問題意識を持つことで、展示はさまざまな表情を示してくれる。それは時に展示者
の意図をも超える。知ることで世界は広がり、モノの見え方や、自らの立ち位置も変わる。自ら企画した展示を顧みて、
無自覚の中で思考を限定するようなバリアーを張って、さまざまな知の世界への広がりを妨げてはいなかっただろう
か。ミュージアムの可能性を、ミュージアム自身が見失っているように見える昨今、無意識・無自覚のバリアーがあるの
ではないかとの思いで、もう一度足下を見つめてみたい。

6月14日
立命館大学アートリサーチセンター
祈祷と占い-中世日本人の信仰-
(6月6日~6月26日)
 大学での講義を終えて、京都で用事を一つ済ませて、立命館大学衣笠キャンパスへ。ARCへ初訪問。同センター所
蔵資料(明示されてなかったが、多分、藤井永観文庫旧蔵資料なのでしょう)の中から修法の本尊像や聖教類などを並
べる。九曜秘暦(室町時代)は東寺観智院旧蔵。瑜祇切文(南北朝時代)、瑜祇塔図(南北朝時代)などめずらしい。貞
慶筆の聖教(資料名を忘れた…)も、明恵とも関連しそうな重要そうなもの。会期中、25日・26日に行う同名のシンポジ
ウムの関連事業のよう。センターのウェブサイトでは、広報ページの「web展覧会」掲載の展示品一覧が実際の作品リ
ストとは異なり整合しておらず(先の貞慶のものが載ってない!)、開館時間や休館日の記載がない(あるいは目に付
きやすい階層にないのか)など、デジタルコンテンツに力を入れているのに肝心のウェブが利用者目線でないのは残
念。ちなみに9時30分~17時開館、土日休館、最終日は土曜ながら開館のよう。図録なし。見学後、龍谷大学へ移動
して、仏教文化研究所セミナーで神像の研究発表を拝聴。

6月28日
矢田寺(金剛山寺)
本尊開帳(平城京遷都1300年記念祭―祈りの回廊―)
(6月1日~6月30日)
 大学の講義を終えて、車を20分ほど走らせて矢田寺(大和郡山市矢田町3549)へ。あじさいが見頃ながら、暑くて汗
がしたたり落ち、花を愛でる余裕なし。本堂で開帳中の、本尊地蔵菩薩立像(平安時代前期・重文)、十一面観音立像
(奈良時代・重文)、吉祥天立像(永禄6年<1563>・宿院仏師源次作)の大きな三尊や、修理して奈良時代当初の造形
へと変更された二天立像ほかを拝観。続いて東明寺(大和郡山市矢田町223)の特別開帳(6月1日~6月30日)へと
向かったが、当日は法務で公開中止との貼り紙。ポスター等みればもともと公開しない日であることが告知されており、
当方のリサーチ不足。残念。道沿いの矢田坐久志玉比古神社に立ち寄るも、重文の社殿はそばまで近寄れず。

松尾寺
日本最大役行者ほか開帳(平城京遷都1300年記念祭―祈りの回廊―)
(6月1日~6月30日)
 それならと、松尾寺(大和郡山市松尾山)へと足を運び、大黒天立像(平安時代・重文)、役行者像(室町時代か)を
拝観。橿原へ向かって用事を済ませ、帰宅。

7月20日
高野山霊宝館
夏期特別展 ちいさなほとけさま
(7月17日~9月26日)
 大きさの小さいもの、細かな細工や文字、童子や子どもの姿など、さまざまな「小さきもの」に着眼し、その小ささの中
にある大きな世界観を、バラエティーに富んだ高野山の文化財を横断して展示する。仏像では、孔雀明王坐像(快慶
作、重文、以下所有者名を記さないものは、金剛峯寺蔵)、毘沙門天立像(胎内仏・重文)、制多迦童子・矜羯羅童子
立像(運慶作、国宝)、十一面観音立像(宝亀院・重文)などのほか、板彫胎蔵曼荼羅(重文)など浮彫像の数々。快慶
作広目天像胎内納入文書が初出陳。仏画では伝船中湧現観音像(竜光院・国宝<~8/22>)、薬師十二神将像(桜池
院・重文)などのほか、地蔵菩薩曼荼羅図(宝城院)、千体弘法大師像、五大尊并千体不動尊像といった珍しいもの
も。新出の細字法華経は装飾を施した料紙に記された平安時代後期のもの。平常展でも高野山ならではの優れた仏
像がずらり(快慶作四天王立像、西塔旧在大日如来坐像、正智院不動明王坐像などなど)で、見所満載の全85件。夏
休みは高野山へGO!。図録なし。

7月30日
大阪府立弥生文化博物館
特別展 MASK―仮面の考古学―
(7月17日~9月12日)
 考古学的成果により全国で発見された縄文時代~弥生時代の仮面を一望する。仮面の発掘事例が増えつつあるこ
とや、鼻曲がり仮面や耳鼻口のパーツだけの仮面の地域偏在的な分布など、学問分野を違えると全然知らなかった事
も多く参考になる。日本の仮面の文化史を考える上で、現時点での考古学的な達成を把握できる機会はありがたい。
図録あり(1000円)。

8月1日
兵庫県立歴史博物館
特別企画展 なつやすみ親子シリーズ 変身 仮面のひみつ 
(7月17日~9月23日)
 民博所蔵資料を中心に、世界の仮面の造形、素材、使用方法等の多様なあり方を提示。近現代のおもちゃの仮面
や変身するヒーロー(ヒロイン)もフォロー。後半で少し展示される兵庫県所在の仮面中、長田神社の鬼面や桑野本区
の行道面をチェック。図録なし。

兵庫県立考古博物館
企画展 夏休み考古学ナゾとき教室 
(7月17日~8月31日)
 縄文時代の人々の生活を、エコロジカルな視点から、発掘資料とクイズ形式のパネルなどを用いて、子ども向けに提
示。図録なし。施設内スタンプラリーや製作体験など、子ども向けのイベントが充実。ボランティアスタッフも含めた職員
数が多そうで、来館者満足度が高そう。

8月7日
奈良国立博物館
特別展 仏像修理100年
(7月21日~9月26日)
 日本美術院による仏像修理の(約)100年史を、特色ある10数件の修理事例を取り上げて、濫觴期から現代までの活
動の流れをさまざまな修理記録(図面、模型、手帳等々)と仏像で提示。伝統の墨守だけでも合理性の追求だけでもな
い、仏像ごとに異なる修理達成の理想形を、事例ごとに携わった人々が常に探り続けるなかで展開してきた「日本近現
代彫刻修理史」の提示に努める。展示されている新納忠之助や西村公朝の調査ノートをみるだけでも、過去の修理時
における作品のプロフィールに迫ることができ、興味深い。クスノキ・カヤ・ヒノキで作った仏像模型と木っ端を、子ども
に匂いをかがせながら体験させる。図録あり(144頁、1000円)。
 
なら仏像館開幕記念特別展 至宝の仏像 東大寺法華堂金剛力士像特別公開
(7月21日~9月26日)
 法華堂金剛力士像の大迫力に、しばし見とれる。平安時代初期の歓喜寺阿弥陀如来坐像(超昇寺伝来)は初見。
「本館」から「なら仏像館」への大きな変更点は照明コンセプトの変更とリニューアルで、全資料をスポットで陰影を強調
する方針に変更。ケース内の小さなものは見づらいので、ケース内照明を補助的に用いてもよいのでは。図録あり
(160頁、1000円)。

葛城市歴史博物館
企画展 當麻寺縁起絵巻-下巻-
(7月17日~8月16日)
 当麻寺縁起絵巻(重文)のうち下巻を展示。三条西実隆詞書、土佐光茂・芝琳賢絵になる、室町時代後期の絵巻の
優品。土佐光茂の絵も堅実だが、琳賢が描く練供養会式の光景は、仏画を得意とする南都絵所の面目躍如。人物の
表情も若々しく眉目秀麗で、よく似た16世紀の仏画は散見される(東大寺縁起とか)。お練供で使われていた仮面も2
点展示。室町時代とされるが、もう少し古い可能性もあり。図録なし。

8月10日
千葉市美術館
MASKS―仮の面―
(7月6日~8月15日)
 日本・アジア・オセアニア・アフリカの仮面を集める。鎌倉時代とされるやや大ぶりの翁面、正中元年(1324)銘の多聞
天面、室町時代の面奥の厚い立体的な賢徳に注目して鑑賞。仮面を作って写真を撮るワークショップもチェック。図録
あり(184ページ、2000円)。

大倉集古館
欣求浄土 ピュアランドを求めて―大倉コレクション 仏教美術名品展―
 大倉美の仏教美術コレクションを浄土をキーワードにチョイス。空也上人絵伝、1幅だけだが、珍しいもの。修理完成
した十六羅漢図は同図像のものが少ない中で十六幅残るのは貴重。画風に2種あることは不思議。小さいながら全図
の図版が掲載された「小さな蕾」9月号(800円)を購入。図録なし。

三井記念美術館
特別展 平城遷都1300年記念 奈良の古寺と仏像―會津八一のうたにのせて―
(7月7日~9月20日)
 奈良の仏像が東京に集合。金銅仏の優品を、側面や背面からも見られるありがたさ。西大寺の塔本四仏(奈良時
代)が並ぶ光景を堪能。あえて4体の中で着衣形式を違えてバリエーションをつけようとする工夫は、だれがリードして
おこなうのだろうかと考える。唐招提寺の如来形立像は、トルソーだけに、展示空間やライティングとのマッチングが難
しい模様。図録あり(320ページ、2500円)。

東京国立博物館
誕生!中国文明
(7月6日~9月5日)
 なんといっても、龍門石窟の宝冠如来坐像。会場にくるまで、こんな像が出陳されているなんて考えもしなかった。宝
冠・装飾をつける如来像で尊格について注目されがちだが、像高2m40cmの巨像で、盛唐期彫刻の緊張感ある姿勢、
体躯のひきしまり、切れ上がるまなじりの厳しく若々しい風貌と、その造形も優れている。広報ではこの像は全くといっ
ていいほど取り上げられないのが不思議だが(一番運ぶのが大変なのでは)、一見の価値あり。開元寺塔地宮出土の
天王および力士立像(開宝9<976>)も貴重な鑑賞機会。妙楽寺塔安置の銅製獅子(10世紀)は、平安時代の日本の狛
犬と類似。図録あり(254ページ、2300円)。法隆寺献納宝物館でギガク面をじっくり。

8月28日
海の見える杜美術館
海の見える杜美術館至宝展 The Story―偉才のコレクター梅本禮暉誉の軌跡― Vol.3華麗なる書と厳かな古画の世

(7月4日~8月29日)
 コレクションを4期に分けて公開中。お目当ては那智参詣曼荼羅の異本。縦長の構図で、絹本に描かれる(研究史上
では王舎城美術館本とされるもの)。絹本であるところに、異本成立の鍵があるのだろう。那智滝と川を縦長に配置す
ることで画面の安定を図る。もう一幅、新出の那智参詣曼荼羅も展示(2曲1隻の屏風仕立)。図録あり(256頁、3200
円)。

8月29日
小城市立歴史資料館
小城の仏像
(7月24日~9月19日)
 背振山系の西端、天山に鎮座する天山宮のうち、晴気天山社の日光菩薩・月光菩薩(平安時代)、狛犬(鎌倉時
代)、女神坐像(室町時代)ほかを展示。平安時代後期の作風を示す日光菩薩・月光菩薩立像の各背面には仁治3年
(1242)の修理銘あり。頭体と腕部も含んで前後二材を矧ぎ、頭部を着衣との境で、腕部は前面部のみ割りはぐ特殊な
構造。厚みが薄く、前後二材にする必要性が不明で、結果両像ともに薄い後頭部材と腕部前面材(各一手)を欠失す
る。造像時期から間をおかない修理も、こうした構造によるものか。上記構造に特別な意味をみいだせるかどうか、悩
むも、答え出ず。図録なし。

九州国立博物館
九州国立博物館開館5周年記念特別展 馬―アジアを駆けた二千年
(7月13日~9月5日)
 馬の文化史を展示するが、古墳時代の馬具の優品を集めることに主眼があったもよう。図録あり(200頁、1500円)。

九州国立博物館開館5周年・滋賀県立琵琶湖文化館開館50周年記念 湖の国の名宝―最澄がつないだ近江と太宰
府―
(6月11日~9月5日)
 滋賀県立琵琶湖文化館の寄託品・館蔵品の優品を展示。文化館休館後の、コレクションの有効活用とアピールとい
う点で、有意義な機会。嘉田由紀子滋賀県知事が講演会・ギャラリートークを行っているが(8月21日)、内容は把握し
ていないものの政治家のこうした活動が伝えるメッセージは、文化館にとってわずかでも光明がありそうだという期待を
持たせる。図録掲載の「50年の足跡」も先の休館問題は抑制した筆致で括り好感。図録あり(160頁、1680円)。金勝寺
僧形八幡神坐像は、形式の類似例がなく、八幡神像かどうか要検討。 

9月3日
和歌山市立博物館
特別展 よみがえる和歌山の縄文世界―人・暮らし・祈り―
(7月17日~9月12日)
 会期終了間際になって駆け込む。縄文時代の重要遺跡・鳴神貝塚など和歌山の縄文遺跡と遺物を網羅して紹介す
る。関東や中部の資料も多数集めて比較が容易。圧巻の資料点数。宮城県恵比須田出土の遮光器土偶(東博・重
文)など土偶をチェック。図録あり(76頁、800円)。

9月20日
越前町織田文化歴史館
企画展覧会 神仏習合の源流をさぐる-氣比神宮と劔神社-
(9月4日~10月11日)
 早朝に和歌山を出立し越前町入り。同町内劔神社に伝来する神護景雲4年(770)銘梵鐘(国宝)には「劔御子寺鐘」
と陽鋳銘があり、ごく早い時期の神宮寺の存在がうかがえる。今年行われた劔神社境内発掘調査の成果の提示を核
に、やはりごく早い時期に神宮寺を確認できる気比神宮の資料とあわせて、15件の小規模な展示。標題の文脈とはリ
ンクしないものの、神仏習合の典型的な作例として、越前町八坂神社の頭上面をもつ女神坐像を展示。頭上面は全て
後補だが、当初の仕様。造像時期を鎌倉時代とするが、作風から平安時代後期でよいのでは。常設展示の劔神社の
大きな八相涅槃図パネルも確認。越前町の濃密な宗教文化に思いをはせる。図録あり(42ページ、1000円)。

劔神社宝物館
 劔神社に参拝し、境内を散策していると宝物館(収蔵庫)あり。拝観可とのことなので社務所に声がけして開けてもら
う(大人300円)。国宝梵鐘を子が触らないようにガードしながら間近に鑑賞。銘文もよく確認できる。その他室町・戦国・
江戸初期の古文書若干。

越前陶芸村
 越前焼の産地、越前町。織田文化歴史館の近隣の陶芸村を訪問。子とクイズラリーし、福井県陶芸館で越前焼の展
示等を見て、園内のそば処で越前そばを食す。さあ陶芸教室で絵付け体験と思ったら、昼の休憩時間。どうしようかと
悩んであきらめようとしていたら、職員の方が親切にも時間外なのに体験させてくれる。感謝。ビアカップ600円、マグカ
ップ800円と廉価。子その1はドラえもんを、子その2は謎の記号多数、当方は「観仏三昧」と揮毫。送られてくるまで40
日程度とのこと。楽しみ-。文化交流会館で越前焼のカップでコーヒー。陶芸村を満喫して、敦賀市へ向けて出発。沿
岸沿いに日本海を眺めながら車を走らせる。途中にあった北前船主の館右近家が気になったが、帰宅時間を考えて
見送り。

敦賀市立博物館
特別展 近世敦賀の幕開け~吉継の治めた湊町~
(9月18日~11月14日)
 中近世移行期の敦賀の歴史を、たくさんの古文書を中心に展示。前期(9/18~10/17)、後期(10/19~11/14)で多数
展示替えあり。仏像では刀根区の持国天立像(前期)。ややずんぐりとした平安時代後期の像。仏画では西福寺の地
蔵観音像が高麗時代のもの(前期)。図録(1000円)は、オープンに間に合わなかったため予約販売。資料館は旧大和
田銀行本店で、館内の北陸最古というエレベーターに子が執心。気比神宮に参拝して帰途につくも、名神高速30キロ
の大渋滞。地道で信楽へと逃げつつ帰る。行きは3時間ちょっと、帰りは5時間なり。

9月26日
国立民族学博物館
企画展 歴史と文化を救う―阪神淡路大震災からはじまった被災文化財の支援―
(7月22日~9月28日)
 終了間際になんとか駆けつける。地震や水害など自然災害により被災した文化財の救出や保存などの活動を紹介。
仏像では、2007年能登半島地震で被害をうけ修復された等身大の阿弥陀如来坐像(平安時代後期、個人蔵)、2003年
中越地震で被害を受けた狛犬(鎌倉時代、物部神社蔵)を展示。水損古文書をフリーズドライで乾燥させる小型で移動
可能な機材も開発されており、普及が望まれる。文化財レスキューの体制を作るために知っておくべき先行事例を知り
得て有益。パンフレット(27ページ)あり。

EXPO'70パビリオン
 ついでに、太陽の塔をながめ、今年3月にEXPO'70パビリオンとしてリニューアルされた旧鉄鋼館も見学。万博前史
から、EXPO'70の開幕から閉幕までの通史を映像を活用して構築。途中パソコンの端末で、全パビリオンを復元した
CG画像や、万博の報告書を調べることができ、しばし利用。大阪万博の大きなエネルギーを実感し、現代史の展示と
して楽しんで鑑賞。3月までここに保管され大半が廃棄された近現代産業資料2万数千点の歴史は、整理されないまま
どこへ漂っているのか。

10月1日
奈良県立万葉文化館
写真展 小川晴暘と奈良 飛鳥園のあゆみ-小川光三・金井杜道・若松保広-
(9月18日~10月26日)
 母の一周忌のため実家に帰り、法要後、帰りがけに、万葉文化館で仏像写真展を鑑賞。いつかどこかで見ている、
なじみのある小川晴暘・光三の仏像写真。大きなプリントで多数並ぶと迫力がある。小川晴暘の雲崗石窟でのスケッチ
群は味があるなあと思って図録で確認すると、若いころは画家志望だったとのこと。図録(120ページ・2000円)は、編集
に飛鳥園が入っていることもあって図版の仕上がりがよく、版型もB4版で大きい。書簡の翻刻などもあって有益。

10月7日
青洲の里展示室
医聖華岡青洲生誕250年記念特別展 肖像画にみる青洲―何ぞ望まん軽裘肥馬の門―
(10月2日~10月31日)
 県内の高校での講演会を終えて、帰路にたちよる。華岡青洲の肖像画8幅を集めて展観。作画時期、風貌、筆者な
どさまざまな違いがあるが、服装、構図などの共通性は、誰がどのように統制していたのだろうか。案外本人なのかも
しれない。巷間に、青洲の肖像画はどれぐらい残っているものだろうか。リーフレットあり(8頁)。

10月10日
八尾市立歴史民俗資料館
特別展 高安の神と仏 人と信仰
(10月9日~11月29日)
 八尾市内の東部、高安地域の玉祖(たまおや)神社遷座1300年を記念して、高安の信仰史の諸相を提示。玉祖神社
の男神坐像・女神坐像は、平安時代、10世紀後半~11世紀初頭の作。男神像はボク頭冠をかぶり、袍をつけ、拱手、
趺坐する。袍は胸元を開きながら襟を高く立てて特徴的。冠の前に、仏像のような冠飾があるのも不思議。女神像は
左足を立てて座り、衣に入れた両手をその膝上にのせる。持物穴あり。縁起に長保4年(1002)、新たに勝地を山麓に
開き、山頂の神殿を遷し奉ったとあることは、制作時期を考える上で注目すべき情報。ほか、神宮寺感應院の十一面
観音立像(平安時代後期、重文)、恩智神社の猿楽で用いられたと見られる室町時代の翁・父尉・黒色尉面も興味深
い資料。図録あり(80ページ、500円)。娘の幼稚園の運動会が雨天順延のため、大阪にでることにしたのに、結局仏
像鑑賞(^^;)。罪滅ぼしに府立蜻蛉池公園で遊ばせる。

10月16日
奈良県立橿原考古学研究所附属博物館
特別展 奈良時代の匠たち―大寺建立の考古学―
(10月2日~11月21日)
 奈良時代の寺院建立にあたって活動した諸職の手わざを伝える資料を提示し、伽藍の設計・造営とその運営の綿密
なさまを伝える。柱を打ち割って作る実験展示に興味津々。唐招提寺金堂天井支輪板の奈良時代の絵をじっくり。西
大寺伽藍絵図や唐招提寺伽藍図、東大寺縁起(懸幅本)なども。図録あり(104ページ、800円)。

10月17日
正明寺(滋賀県蒲生郡日野町松尾)
三十三年に一度の本尊ご開帳
(10月17日~11月23日)
 日野町の正明寺を訪問。開帳前に法要があり、地域の方々が集結。法要開始が遅れ、法要も1時間あって、待機時
間が長かったが、黄檗宗のはとても音楽的な法要をみられたのでよし。宇治・万福寺ではまさしく中国式の発音での読
経と集団によるオーケストラのような法要だが、そのへんはローカライズされていて、こじんまりとしている。本尊の千手
観音・不動明王・毘沙門天立像(重文)は間近に見られる。鎌倉時代後期の作で、素地仕上げ。中尊光背の身光部も
当初のよう。本堂は、後水尾天皇より拝領した御所建築で、重文。禅堂安置の大日如来坐像(県指定)は、鎌倉時代
前期の優品。

大津市歴史博物館
開館20周年記念企画展「大津 国宝への旅」
(10月9日~11月23日)
 大津市内の寺院所蔵の国宝・重要文化財を始めとする優れた仏教美術を一堂にあつめる。園城寺の重宝、不動明
王像(国宝、黄不動尊)、智証大師坐像(国宝、中尊大師<~10/24>)、五部心観(国宝)のほか、明王院本や恵光院本
など不動明王像や、園城寺・石山寺・延暦寺の聖教・墨蹟の優品が並ぶ前期(~10/31)と、聖衆来迎寺の六道絵(国
宝)全幅や智証大師坐像(国宝、御骨大師)がならぶ後期(11/2~)の、二回行きたいところ。聖衆来迎寺の善導大師
立像は、小像・未指定ながら、鎌倉時代の優品で、興味深い作例。図録あり(160ページ、1800円)。

10月30日
滋賀県立近代美術館
生誕100年特別展 白洲正子―神と仏、自然への祈り―
(10月19日~11月21日)
 白洲正子が巡り、著書で取り上げた作品を、その文章とともに並べる。お目当ては、伊賀の観菩提寺本尊十一面観
音立像(重文)。六臂の姿。側面も鑑賞でき、体部は9世紀彫刻としてのオーソドックスな造形の範疇にあることを確
認。それに対する頭部の威相を歴史的文脈に位置づけるためには、「森厳」「神秘的」といった印象論ではない威相の
系譜の理論的な解釈が必要であることを改めて感じる。「神らしさ」はどこに現れるかが、思考の鍵か。ほか、金勝寺
軍荼利明王立像(重文)、大蔵寺毘沙門天立像・地蔵菩薩立像(各重文)、岐阜日吉神社十一面観音坐像(重文)、天
河神社の仮面などなど、多数の仏像・神像が並ぶ今年一番の仏教美術展でないかと思う。特殊な作りの図録あり
(2500円)。

京都国立博物館
特別展覧会 高僧と袈裟―ころもを伝え こころを繋ぐ―
(10月9日~11月23日)
 高僧が身につけ、重宝として伝領されてきた袈裟を多数集める。染織技法史展かと思えばさにあらず、伝法衣の文
化史展として、無形の「心」をも展示している。傷みきった袈裟を開くのは、パンドラの箱を開けたようなもので、会期後
も相当ご苦労があるだろうと思うが、それゆえに京博でしかなしえなかった展示。来館者は少ないようだが、京博の存
在価値を自ら高める「奇跡の」展示であり、そうした歴史的な場にはぜひ立ち会ってほしい。図録あり(304ページ、2500
円)。

11月5日
霊山寺
 (社)和歌山県文化財研究会の事業「文化財めぐり」に随行。平城遷都1300年祭にからめて、奈良時代の仏像・建造
物の鑑賞ツアー。霊山寺本尊の薬師三尊像(重文、治暦2年<1066>)の開帳中。副住職の法話ののち、平安時代初期
の檀像彫刻である十一面観音立像をじっくり拝観してもらい、檀像の概念をお伝えする。

唐招提寺
 鑑真渡来の背景と唐招提寺造営の流れ、仏像における唐代様式からの影響についてお伝えして、金堂の盧遮那仏
坐像(国宝)・薬師如来立像(国宝)・千手観音立像(国宝)拝観。その後、宝蔵の木彫群(重文)の意義をお話し、渡来
工人(あるいは同水準)の作例が持つ特徴を意識してもらって、鑑賞。

大安寺
 貫主の法話ののち、秘仏公開中の本尊十一面観音立像(重文)拝観。その後収蔵庫で大安寺の木彫群(重文)につ
いて、渡来工人(あるいは同水準)の作例とそれとは異なる穏やかさを含む作例との違いを説明し、新様の木彫様式
の伝来とその学習のあり方を実作例から見て頂く。ああ、なんとか責を果たせたか。

11月7日
高野山霊宝館
企画展 海を渡る名宝―アジアの中の高野山―
(10月2日~12月12日)
 高野山には、中国や朝鮮半島の仏教美術が多数伝来する。それらは、より仏教の真理に(物理的・心理的に)近い
敬すべき聖なるアイテムとして、また憧れの唐物として奉納・施入された資料群である。釈迦如来及諸尊像(枕本尊)や
板彫胎蔵曼荼羅、密教法具など唐代のものから、成福院阿弥陀如来像、金剛峯寺伝薬師如来像など南宋仏画、奥院
出土の龍泉窯・景徳鎮窯など宋代青磁、金剛峯寺阿弥陀八大菩薩像、宝寿院楊柳観音菩薩像、五坊寂静院弥勒下
生変相図など高麗仏画や経典、常喜院薬師曼荼羅図、円通寺薬師三尊八大菩薩十二神将像、金剛峯寺釈迦八相図
など朝鮮仏画、ほか元~明~清の仏画から水墨画まで、多種多様。副題にあるようにアジアの仏教文化の中における
日本仏教の位置付けを実感できる、希有な機会。図録なし。 韓国・国立中央博物館「高麗仏画大展」(10月12日~11
月21日)には行けそうもないが、この展示を見られて十分満足。

11月21日
鎌倉国宝館
特別展 薬師如来と十二神将―いやしのみほとけたち―
(10月16日~11月23日)
 旧辻薬師堂諸尊像修理完成記念とのことで、国宝館に移管され順次修理を施された像のお披露目と、神奈川県内
に所在する重要な十二神将像をずらりと集める。旧辻薬師堂の十二神将をぐるりと眺めると、巳神像がもっとも造形と
して充実している。なるほど、図録の表紙もこの像である。宝城坊の、近時確認された平安時代後期の十二神将像
は、定智本の図像に基づく極めて貴重な作例。ずらりと全部見られるありがたさに、心躍る。全部で八十数体であろう
か、その作業の大変さを思うと頭が下がる。図録あり(122ページ、1200円)。図録中に、国宝館像と同じ図像の十二神
将像を7例、図版で比較できる表が掲載。重要な研究資料ともなるものである。

町田市立国際版画美術館
特別展 救いのほとけ-観音と地蔵の美術-
(10月9日~11月23日)
 館として継続的にフォーカスしている、印仏・摺仏の意義を再検討するにあたり、観音・地蔵という幅広く信仰された救
済者にスポットをあてて資料を収集。滋賀県・福寿寺千手観音立像と納入品、和歌山県・広利寺十一面観音立像と納
入品、歴博地蔵菩薩立像と納入品が並ぶ最初の部屋に、その意図が集約されている。展示では、『地蔵菩薩応現記』
第6話にある、造った仏像の像内に印仏を納めると像が光明を放った説話を例示し、印仏の積極的評価を試みてい
る。ほか仏像では、よみうりランドの聖観音立像に目を奪われる。9世紀とされる作例であるが、あるいは8世紀の可
能性もと感じるほど、奈良時代風が濃厚に残る。図録あり(200ページ、2500円)。

国立能楽堂資料展示室
特別展 能面に見る女性表現―女面の成立と変遷―
(10月6日~11月21日)
 紀年名を有する重要な女面を事細かに収集し、一堂に展示。前期後期で大幅に展示替えしたので全ては見られなか
ったが、展示替えした仮面パネルあり。女面の形式が次第に決定していく過程を、実物を通じて比較判断できる貴重な
展示。そうした意義は図録でも強調され、展示仮面を年代順に並べて一望できる能面年表は画期的。美術史における
能面の研究は、やる人も少なくあまり進展していない。複雑にからまる伝承やあやふやな極め、本面・写しの複雑さと
所蔵者の壁、研究へのとっかかりをたぐろうとすると挫折しそうになるが、しかし本展で提示されたシンプルなまでに様
式論で能面の編年の網を緻密にしようとする姿勢に学びたい。図録あり(84ページ、2500円)。

11月25日
和歌山県立紀伊風土記の丘資料館
特別展 いのりのかたち―祈願の民具と民間信仰―
(10月9日~12月5日)
 祈願に関する道具を、考古資料や絵馬、郷土玩具など民具から収集。なんといっても見どころは幻獣のミイラ。橋本
市学文路・刈萱堂の人魚のミイラ、御坊市教委所蔵の生身迦楼羅王尊像(小竹八幡神社旧蔵)、和歌山市慈光円福
院の雷獣や烏天狗頭骨。これらの資料をうさんくさいというなかれ。江戸時代の人々の空想と信仰の所産であり、これ
らの背後にある膨大な文化史の広がりに思いを致すと、高揚感を得ること間違いなし。好企画。図録あり(44ページ・
400円)。

11月27日
橿原市今井町(重要伝統的建造物群保存地区)
 和歌山県立博物館友の会のバスツアーに随行。浄土真宗称念寺を中心に構築された寺内町で、商業の町となり、江
戸時代の建造物群が良好に残る。ボランティアガイドのおばあちゃんの解説を聞きながら巡る。今西家住宅(重要文化
財)は中にも入らせてもらう。河合家住宅は造り酒屋。称念寺本堂(重文)の傾きぶりにあぜんとする。これから10年か
けての修理との由。
 
当麻寺
 古代寺院としての当麻寺と浄土信仰の重要拠点としての当麻寺がクロスし、それに呼応して金堂・講堂・東西両塔の
ラインと仁王門・本堂(曼荼羅堂)のラインがクロスすると、やや図式めいた形で古代・中世寺院の信仰の重層性を解
説。本堂の当麻曼荼羅は、文亀本が修理中のため江戸時代のもの。堂内の役行者像(鎌倉時代)をみて、さらに葛城
修験もクロスしていることを伝える。金堂で弥勒仏(国宝)、四天王立像(重文)、講堂で多種多様な諸尊を信仰の重層
性という点から補助線を引いて解説。奥院に向かい、宝物館を拝観。当麻曼荼羅と迎講の意義を、いかに衆生に救済
が及ぶことを確信させるか、という道具立てという観点から解説。帰り際、一人再度金堂に飛び込んで、四天王像を確
認しておく。

12月11日
藤田美術館
季節を愉しむⅠ 秋~新春の美術
(9月11日~12月12日)
所蔵の優品をセレクトして展示。奈良・永久寺真言堂旧蔵の両部大経感得図(国宝)のうち龍猛図、追儺面赤鬼・青鬼
(平安時代)など。法眼快慶の銘と開眼行快の銘を持つ小さな地蔵菩薩立像(重文)をじっくり。当初の彩色・キリカネが
良好に残る。光背も当初。着衣のうち、吊り袈裟の紐を別材製(銅製?)とするなど、細部まで丁寧な作り。興福寺旧蔵
の由であることも興味深い。図録あり(200円)。

大阪市下水道科学館
子のリクエストで訪問。渦巻き発生器や水滴を観察できる演示具など、ほぼ全て体験型展示。やっぱり、ハンズオンに
はハンズオンのよさがある。ところで「客層が違う」という理由で、ミュージアム同士の事業協力に一定の線引きをしてし
まう傾向があるが、現に古美術系美術館と科学館をはしごしているように、案外そうした線引きをまたいでミュージアム
は利用されている。来館者にレッテルを貼らないことが肝要。

12月19日
奈良国立博物館
特別陳列 おん祭と春日信仰の美術
(12月7日~1月16日)
 恒例のおん祭展。今年は金春家伝来、東博所蔵の能面や能装束を取り上げて、おん祭の猿楽(能)にスポットをあて
る。天下一是閑(出目吉満)の増女、曲見と熊太夫作銘がある若曲見のセレクトは渋い。熊太夫は15世紀の面打だ
が、それにしては若曲見は様式としての完成度が高い。能面の様式展開は、なかなかすっきりと絵を描けず難しい。善
春作の地蔵菩薩立像を眺め、春日地蔵の文化史に思いをはせる。図録あり(80ページ、1500円)。
 常設展示は名品展となり、特集展示「国宝を味わう」(12月7日~1月10日)も開催中。ケースの透明度が高まり、一遍
聖絵があたかもそこにあるかのよう。子は手を伸ばしてガラスに触れて驚いている。子を抱き上げてのぞきケースの牛
皮華蔓も鑑賞させる。子嶋曼荼羅の大幅を見上げて、子がポツリと「上手だねえ」。うん、上手。仏像も見る。

1月4日
吉祥草寺
正月早々に入院中だった祖母を亡くし、喪主としてばたばたと葬儀を行って、なんとか終えての帰り道。ちょうど奈良県
御所市の吉祥草寺の横を通りかかったので、思い立ってお参り。前回参拝した際には役行者像の拝観がかなわなか
ったが、今回は境内奥の写経道場が開いていて、そこに本尊として安置されている同像を拝む。今年、6月からの企画
展で、葛城修験を取り上げるのでその祈願にと、読経。和歌山で仕事をしている以上は、修験をきちんと評価していか
なければならない。半年で、自分をきっちりレベルアップさせたいと、若々しい風貌(珍しい)の等身大の役行者に相対
する。今年もがんばろう。

1月9日
宇陀水分神社
 お見舞いのため、奈良県宇陀市へ。病院を出て、近隣にある宇陀水分神社に久しぶりに参拝。三棟の本殿は元応2
年(1320年)建立で、国宝指定。2003年に塗り替えされて、華麗。そのまま橿原市へ向かい、いろいろ片付けものをし
て、和歌山へ戻る。

1月23日
安倍文殊院
 宇陀へお見舞いに行って、帰宅途中に安倍文殊院に参拝。子にお抹茶を与えて、本尊拝観。快慶作の文殊菩薩騎
獅像及び眷属像(重文)の群像は、順次進められている修理のため、善財童子像、仏陀波利三蔵像は不在。文殊はま
だ獅子から降りていて、1月25日まで特別公開とのこと。今回の注目は維摩居士像。修理にあたって像内に慶長12年
(1608)南都大仏師宗印による制作であることを示す銘文が発見され、新たに重文に追加指定された(指定名称は住
吉明神像)。改めて見てみると、その大きな特徴は面部の表現にあると思う。老人の風貌を表現するにあたり、能面の
尉の表現を意識的に用いている(笑みを含んだ目・線を彫ってあらわすしわなど)。像内にはさらに住吉明神像として造
像したとする銘記もあり、謡曲「高砂」で用いる尉面(住吉尉・小尉)との連想もはたらく。宗印は兄宗貞とともに、金峯
山寺の蔵王権現像、方広寺大仏(東山大仏)を造像し、研究史上では下御門仏師とよんでいる。戦国期に奈良一円を
主な活動圏とした宿院仏師を出自とし、奈良町・下御門町に工房を構えた。豊臣秀長に登用され天正期後半に豊臣家
と強く結びついて活躍したがすぐに失脚、慶長期以降は奈良の仏師として逼塞したが、鎌倉時代彫刻に深く学習したい
くつかの作例を残す。奈良町の上層町民であり茶人や僧、職能民らとの文化サロンの構成員でもある。能面の表現を
意図的に用いることは教養人として十分ありうる。そんなことをぼんやり考えていると子が飽きて騒ぎ出したので退散。
絵馬を購入して、よい論文がかけますようにと祈願文を書き込み、たくさんの合格祈願の絵馬の邪魔をしないようにそ
っと懸ける。

1月28日
徳島市立徳島城博物館
企画展 館蔵浮世絵展
(12月4日~1月30日)
 近年に、3人の方からそれぞれ寄贈された浮世絵を活用して展示。浮世絵の基礎知識やジャンルなど紹介。コレクシ
ョン形成の背景に、阿波の人形浄瑠璃や義太夫文化があるとのこと。伝来史が資料をさらに豊かに彩っている。常設
展示の絵画作品なども鑑賞。
 その後同館での講演会で講師を無事?務めて、一路高知入り。

1月29日
竹林寺
 早めにホテルを出立して、訪問。本堂に参拝後、宝物殿へ。重文・渡海文殊の群像(本尊は秘仏)を、みずらを結っ
た善財童子像に注目しながらじっくり拝観。檀像彫刻である聖観音立像(重文)は、以前の訪問時は独立ケースで背面
も見られたような記憶がある。今は壁面のひな壇に安置され、少し遠くなって残念。

高知県立美術館
特別展 ポップ・アート 1960’s→2000’s
(12月19日~3月27日)
 そばを通ったので表敬訪問。開催中の本展を鑑賞。ポップアートの流れを「お勉強」できて有益。しかし、白亜の殿堂
に並ぶと、「ポップアート」という概念自体がある種の権威性を帯び、ポップアートをポップに受容できなくなるなあと、門
外漢なのでいいかげんなことを考える。図録あり。

高知県立歴史民俗資料館
国の重要文化財に指定された県内最古の木造菩薩坐像(養花院菩薩坐像)
(1月8日~1月30日)
 昨年新たに重要文化財に指定された養花院の菩薩坐像を公開。東博での新指定文化財展に行けなかったので、滑
り込みではせ参じる。像高25.7㎝で左足を降ろしたいわゆる半跏像。報告では桜かとみられる材から、本体・台座蓮肉
部を彫出し、山口・神福寺の檀像、唐招提寺木彫群との比較の中で奈良時代の檀像の新出作例として評価されてい
る。養花院はもと京都・竜安寺の塔頭で、明治25(1892)年に移転。詳細な図版など、今後の報告をまちたい。

企画展「昔のおもちゃ博物館―山崎茂さんの全国郷土玩具行脚」
(1月2日~3月6日)
 郷土玩具が展示室内にびっしり!(多すぎるぐらい(^_^;))。高知市在住の郷土玩具コレクターより資料が寄贈されるに
あたり開催。その山崎氏のひとことが記されたパネルもあり、展示に奥行きをましている。昨日の徳島城博物館の場合
もそうだが、伝来史の重要性を改めて感じる。図録あり。

定福寺
 山間に移動し、大豊町粟生の定福寺へ。本堂の平安時代末(あるいは鎌倉時代初か)の阿弥陀・薬師・地蔵など拝
観し、宝物館へ。笑った表情の像を含む六地蔵(平安末~鎌倉初か)や孝養太子立像(南北朝)、境内熊野神社伝来
の神像など、数々の文化財に嘆息。寺史の書籍など求めようと庫裏を訪ね、ご住職・副住職と歓談。先代住職が収集
し現在重要有形民俗文化財に指定されている民具の保存のため、NPO定福寺豊永郷民俗資料保存会を設立し、新た
な資料館の建設を計画中とのこと。ご住職の、「自分のお墓も作った。もう、資料館建設だけが私の願いの全てです」と
の別れの際の言葉が胸に残る。賛同の思いで、募金先をここに示す(定福寺豊永郷民俗資料保存会、郵便振込口座
番号:01680-4-100334、一口10,000円)。定福寺のウェブサイトはこちら。

豊楽寺
 定福寺を辞して、同町寺内の豊楽寺へ。仁平元年(1151)建立の国宝薬師堂内の仏像群のうち、釈迦如来坐像の像
内に仁平元年(1151)銘があり、研究史上で著名。寒い堂内で、住職の奥様とお話ししながら拝観。昨年新たに重文へ
の附(つけたり)指定となった日光・月光菩薩像は、修理により後補の彩色が取り除かれ、釈迦如来坐像との類似が確
認しやすくなり、本来の脇侍像であったと判断されたもよう。ただし両脇侍菩薩像間の作風は一致せず、日光菩薩像は
月光菩薩像の「写し」のような特徴がみえる。工房内の熟練度の不揃いか、それとも後補か、簡単には答えはでない。
堂内に安置の朽損はげしい神将形立像(広島・古保利薬師堂の像と類似。鉈彫りの痕跡あり。10世紀か)や菩薩形立
像(11世紀か)なども拝観。あわせて、無理をお願いして庫裏に安置されている平安時代後期の等身の天部形立像3
躯も拝観。うち2躯はさきほどの脇侍像とともに重文附指定された。この3躯、作風は二手に分かれるが、どの二体が
指定対象なのか、現場では判然としなかった。今後の報告などを、まちたいと思う。ところで、薬師堂内の薬師如来坐
像と阿弥陀如来坐像は、定福寺の阿弥陀如来坐像・薬師如来坐像・地蔵菩薩坐像と作風が一致していることはすでに
知られている。当該地域を活動基盤とする仏師の存在が見える事例であり興味深い。新たな附指定?の天部形像の
1躯についても、定福寺本堂の毘沙門天立像と似ているように感じたが、また図版などで確認してみよう。

1月31日
長岳寺
 奈良で用事を一件済ませ、せっかくなので天理市へ足を向け、長岳寺訪問。先日高知・豊楽寺の仁平元年(1151)銘
のある釈迦如来像を拝観したし、というのもあって、自分の原点でもある同年銘を持つ阿弥陀三尊像と相対する。最新
の情報では、阿弥陀三尊と同じ堂内にあって、従来三輪より伝来したといわれてきた二天像(平安時代後期)の台座
に、明治以前から長岳寺に伝来していたことを示す銘記があると判明。阿弥陀三尊像と関連づけるかどうか、それぞ
れの作風をどう整合させるかが、次の作業。ぱっと見ただけでも天冠台の文様構成が全く違うという点は気になるが、
同時期の京都とはまた違うその作風は「奈良様」。足元の表現などは永久寺伝来の持国天像と似ていたりもする(全体
のボリュームは全然違うけど)。課題は多いが、でも楽しい課題。拝観後、ご住職を訪ね、いろいろ意見交換し、晴れ晴
れとして和歌山へ帰る。

2月2日
秀吉清正記念館
特集展示 神になった秀吉・清正
(2月1日~3月13日)
 神格化された豊臣秀吉(豊国大明神)と加藤清正(日蓮宗寺院で勝負の神などとして信仰)について取り上げる。お
目当ては同館所蔵の豊臣秀吉像。面貌は、神威を表現するための工夫として、翁面の表現を重ねていると思われる。
猿楽好きの秀吉だからなのか、仏師側の工夫なのかは課題。面貌表現、着衣形式、着衣の文様、しわの形状、そして
おそらく構造にいたるまで、大阪城天守閣が所蔵する豊臣秀吉像と一致する(ただし像高は少しだけ小さい)。どちらも
七条仏師康正周辺の作ではないかと踏んでいる。図録なし。

神奈川県立金沢文庫
特別展 運慶―中世密教と鎌倉幕府―
(1月21日~3月6日)
 運慶の仏像を7躯も集め、あわせて金沢文庫所蔵の中世文書を通じて運慶仏が生み出された時代・背景をも浮かび
上がらせる。円成寺像、光得寺像、真如苑像(2/8~)と、運慶の大日如来3躯を集めて同会場に安置するのも、大き
な注目。滝山寺聖観音菩薩像の装飾金具をのぞきケースで間近に見られるのも新鮮。分厚く、すき彫りで立体感を表
す手業を目に焼き付ける。図録あり(88ページ、1500円)。像の側面や背面の図版も充実していて贅沢な一冊。特に浄
楽寺不動・毘沙門の側面や背面の写真はとてもありがたく、その彫刻の充実ぶりに嘆息。願成就院の諸尊との比較の
前に、像そのものの魅力をもっと引き出す作業がまだありそう。なお、展示替えの関係で、7躯すべてそろうのは2/8~
2/27の期間とのこと。

2月3日
国立公文書館
暮らしのうつりかわり―大正・昭和編―
(11月1日~3月18日)
報告会のために訪れた東近美のオープンがゆっくりなので、隣の公文書館に随分久しぶりに訪問。大正時代から昭和
30年代までの衣食住など日常生活に関わる公文書を展示。日本国憲法原本など。パネルで展示している資料のなか
に、単にパネルのままでなく、原本の輪郭に沿ってきれいに切り取っている資料あり。雰囲気が実物っぽく見え、なるほ
ど工夫だなあと思う。

東京国立近代美術館
「日本画」の前衛 1938-1949
( 1月8日~2月13日)
 1930年代後半期から活動した歴程美術協会の作品を中心に、日本画の新たな表現への挑戦の軌跡を提示。不勉
強だと一点づつの意義がもうひとつわからず。コレクション展示では「特集 神仏を表す」(12月25日~2月13日)。護国
寺所蔵、原田直次郎の騎龍観音など。朝から夕方まで、東近美講堂で平成22年度文化庁美術館・歴史博物館活動基
盤整備支援事業報告会に参加。たった10分で「仮面の世界へご招待」の事業報告。ほかの報告者も司会に急かされ
(怒られ)ながら四苦八苦。あげくコメンテーターからプレゼンの仕方が悪いとばっさり。徒労感が・・。

三菱一号館美術館
レンバッハハウス美術館所蔵 カンディンスキーと青騎士展
(11月23日~2月6日)
報告会終了後、東近美をでて、皇居端をぐるりと歩いて、昨年開館した同館に初訪問。展示スペースは大きくないが、
雰囲気はよい。人が殺到する展示だと怖いが、多分入場制限をするのでしょう。時間があまりなく駆け足で鑑賞。不勉
強で鑑賞ポイントがもう一つわからず。いつかしみじみと味わえる時がくるでしょうか。図録あり。

2月12日
トヨタ博物館
企画展 収蔵車&資料でたどる 自動車125年の歴史
(1月25日~4月3日)
 子どものたってのリクエストで、愛知県のトヨタ博物館へGO!。当初は前日に行く予定だったが、雪のため一日延期。
ガソリン自動車誕生が1886年で、その最初の自動車、ベンツパテントモトーツヴァーゲンの展示と、その走行実験の映
像に子とともに見入る。案外速い。バイクをもとに作ったフジキャビン、60年前の車だが、なんだが一周回って未来の
車チックでおもしろい。展示の冒頭に、展示制作にかかわった学芸部員10人(中年~初老の方ばっかり)をかっこよく
撮影した集合写真が飾られているのにびっくり。こういうの、公立施設ではまずないので新鮮(この展示規模に、10人も
関わってるのか、というのもびっくり)。

滝山寺
 トヨタ博物館のあと、トヨタテクノミュージアム産業技術記念館に行きたい子と協議し、トミカのミニカー1個で籠絡して
(笑)、岡崎市の滝山寺へ。先日、金沢文庫の運慶展で滝山寺の帝釈天像を見ていたので、この機会に久しぶりに残
りの像も拝観しておく。宝物殿で、縁起に正治3年(1201)、運慶・湛慶作と伝える聖観音立像、梵天立像をじっくり拝
観。湛慶27~8歳のころ、ということを念頭に置きながら見てみる。ちょうど、たくさんの松明による火の乱舞が勇壮な修
正会鬼祭りの日で(夜中)、準備で賑わっている中、本堂にも参拝。お祭りで使われる後戸に置かれた鬼面3面(現品
は鎌倉時代、宝物殿にあり)を拝見し、係のおじさんと会話。昔はもっともっと賑やかだったんだけど、とのことで、現在
お祭りを維持しているのは約300軒。昔はもっと多く、現在旧住民は100軒ほどで、新住民も多数参加してうまく融合して
いるとのこと。本堂内陣のようすもうかがえ、開帳中の本尊薬師如来坐像(小さな像で、よくみえなかった)、脇侍日光・
月光菩薩像(鎌倉初期か)、十二神将像(鎌倉時代)などならぶ。境内では地元の常磐中学校の生徒が作った土鈴を
販売中で、一つ購入。

3月5日
薬師寺東京別院
宝物特別公開 薬師寺の文化財保護展
(2月26日~3月6日)
 修理が施された聖観音菩薩立像(平安時代中期)、千手観音立像(鎌倉時代中期)を拝観。欠失部材を復元し、文化
財保存と信仰対象としての尊厳を両立させる修理方針をとる。聖観音像は小像だが充実した造形をみせる新資料とし
て重要。新発見の奈良時代の大般若経も展示。聖観音像修理成果、大般若経発見のどちらも記者発表して広報につ
なげているのはすごい。

東京国立博物館
特別展 仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護
(1月18日~3月6日)
 東博で「盲学校のためのスクールプログラム」教員向け研修会に参加。先進的な取り組みと試行錯誤の課程を共有
させてもらう。集合時間に少し余裕があったので終了間際の特別展も鑑賞しておく。大画面の大唐西域壁画はライティ
ングがよく、多くの人が引き込まれるように眺めていた。図録あり。

特集陳列 東京国立博物館コレクションの保存と修理
(2月15日~3月13日)
 館蔵品の修理報告。院派仏師による南北朝時代の千手観音坐像が、ごく間近で鑑賞できる。少し黒かった鼻がクリ
ーニングされてきれいになっている。同像の修理時の図版がリーフレットに多数掲載され有益。

3月28日
談山神社
春の社宝特別公開 アジアとの交流
(3月25日~5月31日)
 宇陀市にお見舞いに行って、子を榛原子供のもり公園で遊ばせた後、山中を抜けて多武峰へ。高麗時代の水月観
音像が今回の公開の目玉であったが盗難の危険性が高いという指導があったとのことでパネルに。ただしほかにも、
永楽4年(1406)銘のある白衣観音像、北宋時代の細字法華経や南宋時代の版本細字法華経、唐時代の維摩詰経集
解、元~明時代の龍頭九鈷杵などあり。神廟(旧妙楽寺講堂)で藤原鎌足像(神像、桃山時代)など拝観して、山中か
ら明日香村へ抜けて諸所に顔だして帰る。

今年度訪問した館・寺院等はのべ80ヶ所、鑑賞した展覧会は57本でした。