平成26(2014)年度「展覧会・文化財を見てきました。」

4月4日
功山寺
 特別企画展示 長府功山寺国宝仏殿開扉と秘宝展
(3月15日~6月15日)
 国宝仏殿内で、安置される本尊千手観音菩薩坐像(鎌倉時代後期)と、永正17年(1520)銘を有する二十八部衆像を拝観。

下関市立長府博物館
 企画展 花開く海峡文化-江戸後期の下関学-
(3月25日~7月6日)
 功山寺境内に隣接する同館も覗く。陽明学、蘭学の系譜、あるいは文人作品など。

4月5日
志賀島
 福岡・志賀島を散策。まず火焔塚に登る。モンゴル襲来の際、高野山より弘法大師ゆかりの浪切不動尊(現・南院本尊)を当地に移して祈祷し、験があり、戦死者追撫のためその光背をここに残した旧跡とされる。小祠3棟あり、うち不動明王二童子を安置する祠の下に、自然木を利用した光背状の板が転がる。続いて志賀海神社参拝。綿津見三神を祭祀する阿曇氏の氏神社。参道に貞和3年(1347)銘の、総高3mを超える宝篋印塔あり。境内に大量の鹿の角(頭蓋骨付き)が集められていて、圧巻。ほか、蒙古塚、金印公園に立ち寄る。

4月19日
大阪市立美術館
 特別展 山の神仏 吉野・熊野・高野
(4月8日~6月1日)
 紀伊山地の霊場と参詣道の世界遺産登録10周年の記念展。吉野・熊野・高野の各地域に伝わる仏像・神像・仏画を集め、その神仏習合の宗教的空間を提示する。特に吉野の修験道関連資料と熊野の熊野曼荼羅図が充実。櫻本坊の大峯八大童子立像(南北朝~室町時代)、吉野水分神社の洗練された獅子・狛犬(鎌倉時代)は、新資料として重要。図録あり(248頁、2300円)。高野山と熊野のパートは、和歌山県博の調査研究の蓄積が最大限に活用されていて、地域博物館の役割をしっかりはたしてきたなあと振り返りつつ感慨。担当して開催する、今秋の和歌山県博「熊野」展もがんばらねば。

あべのハルカス美術館
 開館記念特別展 東大寺
(3月22日~5月18日)
 あべのハルカス美術館の開館記念展。新美術館(およびハルカス)の「誕生」ということで釈迦誕生仏や華厳五十五所絵巻・華厳五十五所絵など華厳経における童子像をとりあげているだけでなく、東大寺の創建・再建に携わった歴代の高僧を丁寧に紹介し、また五劫思惟阿弥陀如来坐像など永遠と思える時間の流れをも示唆させ、隠れたメッセージとして「叡智」「情熱」「永続性」などを、東大寺の歴史と重ねながら提示。世界最大の木造建造物も、日本最大のビルも、叡智と情熱と資金の結集がなければなしえない工作物であり、そうした点で、重源像や公慶像の象徴性をもっともっと前に押し出してもよかった、とも思う。図録あり(152頁、2000円)。

4月25日
東寺【教王護国寺】宝物館
 東寺の密教工芸-荘厳の美-
(3月20日~5月25日)
 東寺伝来の金工品・染織品を展示。平安初期密教法具は少なめながら、大鋺、鋺、皿、角蓋、鉢からなる重文の金銅製供養具28点と、建武2年(1335)に弘真(文観)が御影堂に寄進した内裏相伝の空海使用袈裟を写した三衣のうち、従来から知られていた九条袈裟と新たに発見された五条袈裟を、弘真施入状とともに展示。展示冒頭には、仏像の台座に附属したと想定される獅子像がお出迎え。9世紀の獅子の面貌表現、肉身表現をしっかり見ておく。リーフレットあり(8頁)。

龍谷ミュージアム
 特別展 チベットの仏教世界 もうひとつの大谷探検隊
(4月19日~6月8日)
 チベット仏教の様々な表象を、北村コレクション、花巻市博物館、国立民族学博物館など所蔵資料から提示。展示の核となるのが、大谷光瑞の指示によりチベットに留学した浄土真宗僧の多田等観と青木文教の招来資料(多田等観の資料が花巻市博、青木文教の資料がみんぱくに多く収蔵される)。2人の青年僧の足跡に想いをはせ、その心の動きに共振しながら鑑賞。
 多田等観がダライ・ラマ13世から贈られた仏伝図23幅は、細緻な描写、22幅が17世紀の一具の制作(補完された1幅も17~18cとされる)でほぼ完存することなど、伝来の確かさもあいまって資料価値の極めて高いもの。本図を展示する空間の構成、導線指示、及び各図の詳細な解説パネルも分かりやすい。全般的には、等観・文教のどちらに関わりある資料なのかということを、スタンプ風のマークで表示しているのも丁寧。担当者の配慮が行き届いたいい展示。図録あり(196頁、2300円)。

京都国立博物館
 南山城の古寺巡礼
(4月22日~6月15日)
 奈良と京都の中間にあって独自の文化圏を形成する南山城地域の宗教的環境を、海住山寺・笠置寺・浄瑠璃寺・岩船寺・酬恩庵ほかの寺院伝来資料から浮かび上がらせる。禅定寺、海住山寺、現光寺の十一面観音像など仏像の優品をじっくり。神童寺不動明王立像は、思いのほか充実した肉身の立体表現に驚き。側面からみる機会を得られるありがたさ。
 本展は、科学研究費補助金「南山城地域の仏教文化と歴史関する総合的研究」による3年間に渡る文化財調査の成果である旨が展示室内に掲示される。多分野の研究員による総合的な調査研究能力を有し、かつ科研費申請によって研究費を調達できる国立博物館の、面目躍如の展示と感じる。今後もこうした形で地域の歴史と文化を明らかにしていく基礎作業的な展覧会を、府下教育委員会や社会教育施設とも連携して行って欲しい。図録あり(240頁、2300円)。

京都府立山城郷土資料館
 企画展 笠置寺の涅槃図と南山城の仏画・大般若経
(4月19日~6月15日)
 笠置寺の仏涅槃図と、南山城地域の村々に伝わった大般若経や仏画を展示。笠置寺仏涅槃図は本紙の縦横がそれぞれ2メートルを超える大画面に、宋元仏画風の顕著な釈迦像を配する新出資料。明兆筆との伝えもあることから展示では室町時代とするが、画風からは鎌倉~南北朝時代に遡ると見られ、笠置寺の中世を考える上でも重要な資料。大般若経は、飛鳥路区蔵中の奈良時代写本、龍雲寺蔵中の宇治白川金色院書写本、地蔵院の文殊菩薩騎獅像が版刷される叡尊発願経など、貴重資料多数。リーフレットあり(4頁)。
 南山城の歴史と文化の諸相を地道に調査し、地域の中で重要な役割を果たしてきた資料館の本領発揮の展示であり、会場設営の造作にお金がかけられなくったって、地元の資料館は、京博に全然負けてない!

奈良国立博物館
 特別展 鎌倉の仏像-迫真とエキゾチシズム-
(4月5日~6月1日)
 施設工事で休館中(~6/30)の鎌倉国宝館に展示・収蔵される仏像が奈良へ大移動して、一望に展観。鎌倉地域の鎌倉時代彫像に見られる運動性・写実性を「迫真」、強い宋風表現を「エキゾチシズム」と括ることでその本質を見えやすく、また肯定的に捉えて、地方彫刻という観点から昇華し普遍化させる。注目作例は、ともに1260年代ごろ造像と目される極楽寺釈迦如来坐像と浄光明寺観音菩薩坐像で、前者は転法輪印を結ぶ古典復古像、後者はまなじりの切れ上がって涼やかな宋風彫像。古典復古と異国憧憬の鎌倉時代彫刻史。図録あり(152頁、1600円)。

東大寺ミュージアム
 東大寺の歴史と美術
(2013年10月10日~開催中)
 鎌倉地域の仏像を見た眼で、奈良仏師作例を確認しようと足を伸ばし、南大門の金剛力士像、永久寺旧蔵の多聞天・持国天像、善円の釈迦如来坐像を鑑賞。四月堂旧蔵の千手観音立像は、ミュージアムの空間にぴたりと収まって、大迫力。初見の、鎌倉時代の小さな不空羂索観音坐像も。開催中の「聖武天皇関連資史料の展示」(4月1日~5月12日)では、建長8年(1256)の四聖御影、東大寺要録が展示。
 東寺の獅子に迎えられ、春日の鹿に見送られ、展覧会巡り終了。

5月17日
早稲田大学會津八一記念博物館
 茶の道具 (5月7日~6月28日)
 荒川修作の軌跡-天命反転、その先へ (5月12日~6月14日)
早稲田大学坪内博士記念演劇博物館
 今日もコロッケ、明日もコロッケ 益田太郎冠者喜劇の大正 (3月1日~8月3日)
 サミュエル・ベケット展-ドアはわからないくらいに開いている (4月22日~8月3日)
 美術史学会の合間に、構内2施設の展覧会見学。會津八一記念館の「茶の道具」は富岡美術館旧蔵のコレクション展示。「荒川修作の軌跡」は図式絵画や「建築的身体」の実体化の過程を提示。養老天命反転地に行ってみたい(気をつけないと足を挫くとの由)。
 演劇博物館の「益田太郎冠者喜劇の大正」は三井の創始者益田鈍翁の息子太郎の劇作を取り上げる。文芸趣味があって喜劇の劇作を行い、帝国劇場で上映させた。帝劇のスター女優森律子の等身大生人形が展示。生人形からマネキンへ、といった研究はあるのかな?。「サミュエル・ベケット展」はベケットの不条理劇の世界観を、「ゴドーを待ちながら」の日本での上演諸例などから紹介。「クワッド」の映像作品をじっとみる。くらくらする。
 大学博物館の展示は、やはり“とんがって”いて、楽しい。

5月20日
堺市博物館
 企画展 和泉国法道寺の至宝-鉢峯山のほとけのかたち-
(5月17日~6月15日)
 法道寺所蔵十六羅漢像(重文)16幅の修理完成を契機として、寺内に伝来する文化財を展観。
 八角裳懸座の阿弥陀如来坐像や、肉身部と着衣部を割り放し(足先も別材製)て生身性を表出した阿弥陀如来坐像といった彫刻史上に著名な平安後期の作例を始め、本尊の3躯の薬師如来坐像と随侍する二天立像、台座光背も残る阿弥陀如来立像など平安後期彫像、鎌倉後期の堅実な出来映えを示す十二神将立像12躯などの彫刻資料が林立し、仏画では十六羅漢像(南北朝)、高麗仏画の大幅である阿弥陀三尊像、興教大師像(室町)、鎌倉期の版木で江戸期に摺写したかと想定されている阿弥陀如来摺仏など、魅力的な作例がずらり。考古資料、建造物、典籍類も含め法道寺が中世資料の宝庫であることを実感させる内容で、総合的な調査研究に基づいた、地域博物館の役割が存分に果たされた好展示。
 図録あり(64ページ、760円)。所収の堀川亜由美「鉢峯山法道寺の歴史」は、創建期(平安時代後期)から近代までの法道寺史を概観する貴重な学術成果で、ほか中村晶子「國神社ゆかりの文化財」、東野良平「法道寺伽藍の変遷について」、近藤康司「瓦からみた法道寺の建立」、渋谷一成「上神谷と若松荘」、矢内一磨「鉢峯寺山-年預・坊中・惣百姓が統べる近世村-」を収載。

5月31日
滋賀県立安土城考古博物館
 特別展 安土城への道-聖地から城郭へ
(4月26日~6月15日)
 滋賀県における戦国期の城郭が聖地・霊山に築城されている事例があることから、「城」に地域支配における宗教的権威を象徴的にまとわせ、信長・秀吉など戦国武将の神格化もこうした状況を背景にする、とする魅力的な仮説を展示を通じて示す。そうした趣旨のため、城郭立地地と強く関わる寺社の仏像・神像が多数出陳。庵寺観音講大日如来坐像(9c)、成願寺薬師如来坐像(12c)、矢川神社神像群(11c~14c頃)、百済寺弥勒菩薩坐像(8c)、日牟禮八幡宮神像群(11~13c)などなど。考古資料・美術資料・地理的環境を素材にして地域史を読み解く、意欲的な試みといえる。図録あり(112頁、1300円)。

湖東三山(西明寺・金剛輪寺・百済寺)
 びわ湖湖東三山・三山同時公開 秘仏本尊ご開帳
(4月4日~6月1日)
 湖東三山の秘仏本尊同時ご開帳に、期間ぎりぎりで滑り込む。百済寺本尊の十一面観音立像は、近時の報告により飛鳥時代後期まで遡りうると判断された、像高234㎝の巨像。7cの木彫像研究は比較作例が限定されるが、渡来系氏族の寺院であると仮定すれば、たいへんに興味深い作例。西明寺本尊の薬師如来立像は、平安時代後期の造像ながら、やや厳しい顔付きに前代の余風も漂う。金剛輪寺本尊の聖観音菩薩立像は平安時代後期の鉈彫り像。行者系彫像ゆえの聖性・霊威をまとう。それぞれ本堂内の諸尊像もあわせて拝観。満喫。

愛荘町立歴史文化博物館
 特別展 文化財にかける技とねがい-保存修理の成果-
(4月19日~6月1日) 
 金剛輪寺参道の同館展示に、会期終了間際に滑り込み。文化財修理や保存について、その理念や技術を実作例や道具等から紹介。金剛輪寺十二神将像は、現在剥落止め等の修理継続中であるが、修理前の像、修理中の像、修理後の像をそれぞれ展示して、修理状況を分かりやすく提示する。ほか檜皮葺の技術や道具、窒素置換低酸素濃度処理法の紹介、根津美術館本胎蔵曼荼羅(金剛輪寺旧蔵)の復元模写、西光寺仏涅槃図修復についてなど、盛りだくさん。高水準の修復や模写に関わって着々と事業を進めてきた博物館及び町・町教委の丁寧な仕事ともに、それを展示や図録で紹介し広く共有化される同館の高い見識に、背筋が伸びる思い。図録あり(32頁、1000円)。

6月1日
和歌山市立博物館
 わかやま歴史再発見-ミュージアム コレクション-
(4月19日~6月1日)
 近くなのにようやく最終日に滑り込む。収蔵資料を、小・中学校社会科(歴史)教科書と連動させて通史的・トピックス的に再配置。歓喜寺文書、加太向井家文書、総持寺明秀上人像など展示機会の少ない寄託資料をじっくり確認。図録なし。

6月2日
八尾市歴史民俗資料館
 企画展 大坂の陣と常光寺
(4月24日~6月30日)
 慶長20年の大坂夏の陣・八尾の合戦で主戦場となった常光寺所蔵の資料を中心に、八尾における中世から近世へかけての地域史を、藤堂高虎ほか藤堂氏の交流を視点に提示。八尾市内文化財保存公開施設連携強化事業実行委員会による「歴史都市八尾プロジェクト」の一環。

常光寺
 大坂夏の陣 よみがえる八尾の戦い 常光寺
(6月1日~6月8日)
 「歴史都市八尾プロジェクト」の一環として、常光寺本坊で中世~近世の八尾と常光寺の歴史を伝える資料を展示。藤堂高虎や、当寺の住持であった以心(金地院)崇伝の書簡など。位牌堂には藤堂家・徳川家の位牌、本堂では秘仏本尊地蔵菩薩立像のご開帳。南北朝~室町前期ごろの等身大の作例。常光寺開基とされる又五郎大夫藤原盛継の像は、烏帽子をかぶった肖像。室町時代か。

6月9日
高野山霊宝館
 企画展 火災と高野山-よみがえるその歴史と暮らし/いろいろな弘法大師像/様々な曼荼羅の形
(4月26日~7月13日)
 高野山における火災の歴史を振り返りつつ、その痕跡を示す資料を展示し、防火の大切さをアピールする。昭和元年に焼失した金堂の柱(櫻池院蔵)が残されていて、驚き。金剛峯寺遺跡出土の12c~19cの遺物(陶磁器類中心)が多数展示されているのも、従来公開の機会が少ない資料で、貴重。古い時期の輸入陶磁器があまりないのは意外だが、明清の磁器は散見される。伝行勝上人所持とされる蓮華定院金剛盤(県指定)は初見。ほか、報恩院の高野山蓮華曼荼羅図(宝永7年)も。本館(紫雲殿)のコーナー展示「いろいろな弘法大師像」では千体大師像、入定弘法大師像、弘法大師十大弟子像など。図録なし。

6月16日
法隆寺大宝蔵殿
 法隆寺秘宝展-室町時代から近世へ-
(3月20日~6月30日)
 従来展示機会の少なかった、室町~江戸時代の仏像や仏画などを展示。彫刻では元禄15年(1702)湛海作の不動明王坐像(西円堂安置)、円空作の大日如来坐像、南北朝~室町時代の大日如来坐像や、塑造の聖徳太子七歳像(室町時代)、永享2年(1430)銘の舞楽面散手や行道面など。絵画では室町時代の子島荒神像、三宝荒神像、立像に表された僧形八幡神像、天文8年(1539)銘を有する八大地獄図絵巻など。永享12年(1440)銘舎利机ほか在銘工芸資料も多数。渋いテーマではあるが、法隆寺の室町時代美術の諸相に接することができる貴重な機会。得るもの多し。図録なし。金堂、五重塔、講堂、大宝蔵院、夢殿も巡る。

6月28日
大和文華館
 特別企画展 社寺の風景-宮曼荼羅から祭礼図へ-
(5月23日~6月29日)
 風景が描き込まれた作品を、「宮曼荼羅の風景」、「参詣曼荼羅の風景」、「祭礼図の風景」、「物語に描かれた風景」、「名所の風景」の順に概ね編年的に示して、聖なる景観を意識する心性の展開と諸相を紹介する。春日宮曼荼羅(石山寺本・大和文華館本)、温泉寺縁起絵(京博)、熱田社参詣曼荼羅(徳川美)、竹生島祭礼図、祇園祭礼図屏風(大歴)、円山応挙筆東山三絶図、司馬江漢筆七里ヶ浜図、京奈名所図扇面冊子、都・大和・摂津・尾張の各名所図会ほか。
 信仰画としての宮曼荼羅では、自然景観・社頭風景・本地仏による実景と神仏のダブルイメージで聖性が付与され、唱導画としての参詣曼荼羅では、自然景観・社頭風景・縁起・参詣者による多重イメージで聖性が付与される。そしてその間をうめる信仰画+唱導画の諸相例と、それらの延長に祭礼図が展開することを実感。図録あり(44頁、648円)。出陳資料のうち館蔵品については『名品鑑賞2 大和文華館の垂迹画』(90頁、1,296円)に掲載。
 帰りに川西町の糸井神社に立ち寄り、おかげ踊り絵馬と太鼓踊り絵馬(県指定民俗文化財)を眺め、脈々と受け継がれた聖なる景観図の系譜に思いを馳せる。

6月30日
東京国立博物館
 特別展 台北 國立故宮博物院-神品至宝-
(6月24日~9月15日)
 台湾の国立故宮博物院収蔵資料を、アジアで初めて大規模に出張公開する画期的な展示。オープン直前に巻き起こった「國立」表記問題(主催マスコミ作製の広報物が意図的に「國立」を抜いていることについて、対応次第で開催中止が通告された)に如実に見られるように、文化交流ではあっても高度な政治問題と背中合わせであり、当事者間の思惑を超え、刻々と状況が変わる中での懸命の舵取りがあったことが想像され、頭が下がる。博物館は「各種文化についての知識を普及し、諸国民間に相互理解を増進する場所」(ユネスコ「博物館をあらゆる人に開放する最も有効な方法に関する勧告」)であり、まさしくこうした問題も含め、知ることで相互理解を果たしていく場とならなければならない。
 注目資料は枚挙にいとまなし。王羲之、孫過庭、蔡襄、欧陽脩、黄庭堅、米フツ、徽宗、高宗…と並ぶ書のラインナップ、初期山水画を集めた明皇幸蜀図軸、江帆楼閣図軸、秋山晩翠図軸、蕭翼賺蘭亭図軸の一角、細密技法による工芸品群など圧巻。月曜開館日なので人は少ないのではと思いきや、翠玉白菜は15時30分の時点で100分待ち。あきらめて帰る。大部の図録あり(424ページ、2500円)。図版がふんだんで色の再現性もよく(多分)、研究資料としても重宝しそう。この本作るだけでも随分大変だっただろうが、もし開催中止になってたらお蔵入りだったのか…。こわー。

7月6日
亀岡市文化資料館
 企画展 ふるさとの名品-指定文化財の世界-
(6月7日~7月13日)
 亀岡市内の指定文化財とともに、市域における文化財保護施策の歴史を紹介。宗堅寺如意輪観音坐像(府指定)は、像内に永仁6年(1298)、大仏師安阿流法橋賢清(及び弟子清(?)春)の銘記がある、「宋風」表現が見られる六臂等身大の坐像。大円寺の薬師如来坐像(市指定)は平安末~鎌倉時代初めごろの鉄仏。同じ型から鋳造された同笵の作例がドイツ・ケルン東亜美術館、京都市右京区の念仏寺に伝来し、鉄仏研究の上で重要。真神寺の石造御正体(鎌倉時代・府登録文化財)は、一見瓦当のような形状だが、如来像2躯、十一面観音像、地蔵菩薩像を刻出。神体として機能したものか。
 ほか、穴太寺観音縁起(府指定)、出雲大神宮棟札、愛宕神社社殿の建築古材(重文)や、市ゆかりの文化財として東博日光菩薩坐像(金輪寺伝来<市域には金輪寺が2つある!ことも初めて知る>)、天王立像(大宮神社伝来)などのパネルも展示。また、明治時代の臨時全国宝物取調局による調査について、鑑査状、小川一真撮影の写真、官報、日出新聞から提示し、亀岡市史編山時の中野玄三氏調書や調査時の光景写真なども。
 地域の指定文化財の全体像を見渡しつつ、指定にいたる調査の歴史にも目配りして、地域博物館の役割を誠実に、また丁寧に果たされた好展示。図録ないのは残念だが、代わりに『ふるさと亀岡の文化財Ⅱ(国・府指定・登録)』ほか入手。市史も見ておかねばならぬー。

7月13日
岡山県立美術館
 初公開の仏像と仏画-過去・現在・未来の三世に満ちる三千の仏-
(4月22日~7月13日)
 和気町の安養寺本堂の建て替えに伴い、秘仏本尊の阿弥陀如来坐像(平安時代後期・県指定)、釈迦如来立像(平安時代後期)、薬師如来立像(室町時代)を公開。阿弥陀如来坐像は堅実かつ洗練された定朝様式の優品で、中央の仏師によるもの。釈迦如来像も堅実な定朝様の三尺像。薬師如来像は木肌の美しい素地仕上げの作例で、15世紀ごろの特徴を示す。後世、三世仏として取り合わされたもよう。ほか、岡山市岡山寺、玉野市金剛寺の三千仏図もあわせて展示。図録なし。
 通常は公開の難しい文化財を鑑賞により共有できるこうした機会は貴重であり、所蔵者とミュージアムをつないだのは、まさしく学芸員の日常的な調査研究活動の蓄積と、それによって構築した関係性である。頭が下がる。

岡山県立博物館
 特別陳列 金陵山古本縁起と西大寺観音院の歴史
(7月4日~7月27日)
 会陽(はだかまつり)で著名な西大寺の縁起絵である金陵山古本縁起(県指定)の研究成果として、就実大学吉備地方文化研究所が今春に『備前国西大寺縁起絵巻』を発行したことを記念し、縁起3巻を展示。巻一、二は永正4年(1507)以降の成立(江戸時代初期ごろか)、巻三は寛文元年(1661)の作。現状巻子ではなく折本に改装される。地域の大学を主体とする堅実な学術的成果が、県立博物館でただちに連動して公開されるのも、日常的な調査研究の互恵・互助関係が築かれているからと拝察される。会期中7月21日は、講演会「『金陵山古本縁起』について」が就実大学の川崎剛志教授、苅込一志教授によって開催され(13:30~15:00)、講演後は同じく土井通弘教授による展示解説あり。図録なし。

8月4日
高野山霊宝館
 第35回高野山大宝蔵展 山の至宝-高野山内寺院所蔵名品展-
(7月19日~10月5日)
 高野山伝来の優品をお蔵出し。金剛峯寺・善女龍王像(国宝)、桜池院・薬師十二神将像(重文)、光台院・毘沙門天像(重文)、竜光院・屏風本尊(重文)、竜光院・大字法華経(明算白点本、国宝)、宋仏画の金剛峯寺・如来像(重文)などなど。未指定の仏画類も初見のもの多し。金剛峯寺・細字大般若経は大般若経600巻を1ミリほどの字で緻密に揺らぎなく書いたもの。あまりの細字っぷりに、同行した娘と歎息。書いてる途中くしゃみしたらどうなるか、という方向に脱線していって楽し。図録なし。

8月6日
奈良国立博物館
 特別展 国宝 醍醐寺のすべて-密教のほとけと聖教-
(7月19日~9月15日)
 醍醐寺文書聖教の国宝指定記念として、長年の調査研究の蓄積をもとに醍醐寺史を紐解きながら、伝来した文化財群の特色を紹介する。なによりその聖教群は密教の修法の伝授にあって集積・保存されたアーカイブであり(かつそれ自体が聖性を帯びる)、本展構成も、密教のビジュアルとテクストの丹念な提示による多様な儀礼の場の想起と、王権と強く結びついた護国寺院としての性格を提示することを骨子とする。
 上醍醐薬師堂伝来の薬師如来及び両脇侍像(国宝・10c)、上醍醐五大堂本尊の五大明王像(重文・大威徳明王が10c)、五重塔初重壁画(国宝・10c)といった創建期の資料、絵画では五大尊像(国宝・12~13c)、太元帥法本尊像(重文・14c)、善女龍王像(13c)など重要な修法本尊像と多種多様な白描図像、そして建久3年(1192)快慶作弥勒菩薩坐像(重文)など輸送に神経の使う資料も果敢に並べ、壮観。図録あり(328頁、2500円)。
 彫刻資料については、醍醐寺宝聚院(霊宝館)の展示「醍醐寺を守る仏像たち」(7月19日~9月15日)でも多数展示公開中。

8月11日
奈良教育大学教育資料館
 文化財とレプリカ物語展-限りなくオリジナルに近づく-
(8月8日~8月11日)
 奈良教育大学が平成25年度に導入した3Dスキャナー、3Dプリンター、CADソフトを活用して作製した文化財レプリカを実物資料とともに展示し、あわせて同大学が教育の一環としてこれまでに行ってきた模写・模造等も公開。
 実物資料は、愛知県・瀧山寺境内日吉山王社の僧形神坐像(鎌倉時代)、愛知県・普門寺の萬暦20年あるいは26年(1592、あるいは1598)銘を有する如来形立像。前者は日吉山王社の主祭神像、後者は初公開の明代銅像で、火中したため首が傾き表面も荒れる。それぞれのレプリカは石膏製で、その素材特性とプリンターの仕様により成形と同時に着色を行えるタイプのもの。実際の仕上がりを確認でき個人的に貴重な経験(成形物が大きくなると表面彩色の情報が甘くなるもようだが、それでも彩色の手間が省けることはとても大きい)。また別に縮小した石膏製レプリカを触れるように準備しており、その強度は充分に触る資料として耐えうることも理解。
 資料の保存と普及、作品研究や技法習得にあって、模写・模造も含めたレプリカが果たす役割は大きい。レプリカと実物の間をうまく架橋しながら、レプリカでなければできない意義をいかに見出していくかが大切であり、本展の試みは重要。私自身も職場で3Dプリンター製文化財レプリカを視覚障害者を始め誰もが触れる資料として、あるいは過疎地域の文化財保存に活用し始めているところであるが、こうした試みの可能性を改めて感じる。図録あり(36頁・アンケート回答者に配布)。

8月16日
MIHO MUSEUM
 特別展 二つの綴織 MIHO悲母観音と蓮華弥勒
(7月19日~8月17日)
 狩野芳崖・悲母観音図及び法隆寺金堂壁画のうち2-5号壁菩薩像の綴織(川島織物製)の公開とともに、観音像と弥勒像を展示。観音像は隋唐の金銅仏が中心。東京藝術大学所蔵の狩野芳崖筆・観音図下図、奈良官遊地取(奈良の寺院の仏像スケッチ)も展示。半跏菩薩像として、神野寺・岡寺・野中寺(展示替え)の各金銅仏と、石山寺如意輪観音半跏像(鎌倉)、四天王寺如意輪観音半跏像(平安)。仏画では寶山寺弥勒菩薩像と覚禅鈔など図像集もあわせて。ほか、個人蔵の弥勒菩薩立像は鎌倉時代の作で、興福寺伝来。天文12年(1543)の修理銘ある由。愛知県立藝術大学所蔵の法隆寺金堂壁画模写12面をぐるりとめぐらせた部屋は圧巻。図録あり(124頁・1800円)。
 
天理市文化センター1階展示ホール
 天理市制60周年記念 内山永久寺の残像
(7月3日~8月31日)
 天理市内にかつてあった大寺、内山永久寺の実像に、旧蔵資料と考古学的成果から迫る。東大寺持国天・多聞天像、正寿院不動明王像、東大寺聖観音像、東博愛染明王像のパネルとともに、実物資料としては奈良市光楽寺の11世紀頃の大日如来坐像を展示(像高50㎝強ほど)。五仏宝冠の装飾や腕釧などを共木で彫出。ほか石上神社摂社出雲建雄神社拝殿など、山内旧所在の建造物や石造物、工芸品なども主にパネルで紹介。配布資料にはその他の永久寺伝来資料を示した表もあり、調査研究の進展を知ることができ有益。興福寺との関係や、修験の拠点としての一面なども含め、永久寺を巡る研究はまだまだ深まっていないといってよい。奈良仏師の造像の場としての永久寺(および長岳寺など近隣一帯含む)のあり方について、自らの研究課題としても検討したいところ。天理市教育委員会発行の『山の辺の道の遺跡を訪ねて』(78頁、1500円)、『天理市の文化財』(192頁、500円)購入。

8月17日
安倍文殊院
 昨日の永久寺展鑑賞で、大和盆地東縁部の平安末~鎌倉初期における奈良仏師(慶派仏師)の動向に一定の意味を持たせる研究がしたいなあと思ったので、実家の用事と片付けを終えた帰り際に、せめて快慶作騎獅文殊菩薩及脇侍像(国宝)の拝観だけでもと立ち寄る。何時見てもすばらし。東博の「日本国宝展」(10/15~12/7)には善財童子像と仏陀波利三蔵像がお出ましの由。

飛鳥資料館
 向原寺蔵 金銅観音菩薩立像の限定公開
(7月12日~9月10日)
 昭和49年に盗難被害を受け、平成21年10月のオークションカタログに掲載されて所在が判明し、関係者・協力者の尽力で翌年に買い戻された向原寺観音菩薩立像を、平成23年の大飛鳥展(於万葉文化館)以来の公開。明和9年(1772)、向原寺脇の難波池で出土した頭部に体部ほかを補ったという由緒を持つ。如来坐像を表した冠飾を伴う頭部は作風からも飛鳥時代後期のもの。
 この由緒は、仏教初伝の際、欽明天皇が「仏相貌端厳(ほとけのかお、きらぎらし)」と評したとされる金銅仏を、蘇我稲目の向原(むくはら)の家を寺として安置したが、その後排仏派によって難波の堀江に捨てられた、という話と当然リンクする。もちろん頭部は6世紀前半まで遡らせることは難しく、豊浦寺関連の遺物であるのだろうけれど、まさしくその蘇我稲目の墓か?という見解も提示された都塚古墳がにわかに注目をあびている時期であり、タイムリーな展示。法隆寺献納宝物の如来坐像(複製)と並べての展示も様式比較の上でありがたい。

8月21日
和歌山市立博物館
 特別展 荘園の景観と絵図
(7月19日~8月24日)
 多数の荘園絵図をずらりと展観して、荘園の領域、開発、経営の実態、争議など、荘園世界の種々相を示す。国立歴史民俗博物館所蔵の精度の高い荘園絵図の複製をフル活用し、和歌山だけでなく、荘園絵図が残る全国の著名な荘園を網羅する。和歌山ではカセ田荘をクローズアップ。また大阪府の日根荘についても詳しく提示。絵図に描かれた荘園世界は、さまざまな角度から読み解けば、中世社会の一面を如実に物語る。図録あり(96頁、800円)。

8月26日
三井記念美術館
 美術の遊びとこころⅦ 能面と能装束-みる・しる・くらべる- 
(7月24日~9月21日)
 金剛宗家ほか伝来の能面の優品と、三井家伝来の能装束を通じて、能面・能装束の魅力を分かりやすく伝える。能面展示のコンセプトは明確で、面の表裏を見せたり類似面を並べる展示手法によって、能面の種類、細部の形状の意味、面裏の情報などを「知り」、そして表現の差異を「比べ」、能面自体の表現のわずかな(しかし重要な)個性が「見え」てくることを示そうとする。そうした意図の結実としてあるのが、第2展示室にただ一面展示された孫次郎(オモカゲ)であり、その抜群の造形表現への気づきをうながす。仮面をめぐる伝承も美しいが、仮面自体の立体表現の絶妙さは写しでは成し遂げられない(と感じさせる)もので、16世紀半ば頃の孫次郎作といいうる重要資料である。そのわずかな抑揚表現による生動感は、写真でも表現されにくく、またおそらく舞台上でも見えなかっただろうが、これを手にとってきた人びとが、美しい伝承をそこに重ねずにはいられなかったことは、素直に理解される。霊現化した運慶仏と似た認知の構造がありそうである。同行した娘が、花の小面とオモカゲ孫次郎を見比べて(なんと贅沢な見比べ!)、眉の形が違うねと即答。おお、確かにそうだと、こちらが教えられる。館蔵能面の図録『三井記念美術館所蔵 旧金剛宗家伝来 能面』(156頁、2500円)あり。

東京国立博物館
 親と子のギャラリー 仏像のみかた 鎌倉時代編
(6月10日~8月31日)
 館蔵・寄託のおなじみの鎌倉時代の仏像の特徴を、分かりやすく、また理解しやすいようにさまざまな工夫をこらして展示する。文殊菩薩騎獅像および侍者立像に波のイラストを重ねる工夫は、絵画表現の持つ臨場感という利点を彫刻で再現しようとする営みの延長にあって、斬新でもあり、伝統的でもある。群像表現にすでに物語が付随している渡海文殊をチョイスした点は堅実。ほか玉眼や、千手観音の持物、像内納入品などのトピックスの紹介も。彫刻としての仏像の魅力である立体性については、展示全体として、運慶作例を始めとする鎌倉時代初期~前期から中期の優品が配置されるが、比較して鑑賞するトピックス展示を設けてもよかったかも。「運慶のすごいところはココ!」みたいな。リーフレットとして「トーハク新聞」(A4)を用意。
 あわせて、特集「春日権現験記絵模本Ⅰ-美しき春日野の風景-」(7月23日~8月31日)、「伎楽面」(8月5日~8月31日)を鑑賞。台北故宮博物院展は、同行の娘が疲れ果てたので(ゴメン)再訪せず。

9月6日
高知県立美術館
 四国霊場開創1200年記念 空海の足音 四国へんろ展 高知編
(8月23日~9月23日)
 四国4県で、同タイトルながらそれぞれ独自の内容で開催される標題展の、先陣を切って開会した高知会場の会期がどんどん終了に近づき、慌てて訪問。高知県美を会場に、高知県立歴史民俗資料館が企画運営し、歴民資料館よりも展示スペースを広く確保して、高知県内(県外作品もあり)の四国霊場及び遍路文化に関わる資料を多数集める。
 彫刻では熊谷寺の永享3年(1431)銘弘法大師坐像、石造の最御崎寺如意輪観音坐像(重文)、竹林寺聖観音立像(重文)、国分寺薬師如来立像(重文)、金剛福寺愛染明王坐像、禅師峰寺の正応4年(1291)銘金剛力士像(重文)のほか、雪蹊寺の湛慶作毘沙門天及両脇侍像(重文)のうち脇侍の吉祥天・善膩師童子像。後期展示(9/8~)ではさらに充実しそう。工芸資料では、四国八十八ヶ所の存在を示す最古の資料である越裏門地主地蔵堂の文明3年(1471)銘鰐口、延喜11年(911)の陽鋳銘を有する延光寺銅鐘(重文)、金剛頂寺旅壇具(重文)など。高知県の仏教美術の精華を、集中して鑑賞できる又とない機会。図録あり(240頁、1800円)。

愛媛県美術館
 四国霊場開創1200年記念 空海の足音 四国へんろ展 愛媛編
(9月6日~10月13日)
 高知県美から愛媛県美まで、どしゃぶりの中、車を走らせ巡礼の旅。へんろ展を「遍路」して、開会初日の愛媛会場に飛び込む。愛媛県内の四国霊場寺院の近年の調査成果を盛り込みながら、多数の資料を集める。
 佛木寺弘法大師坐像は正和4年(1315)銘を有する、記年銘大師像の古例。風貌、着衣とも独特の赴きあり(裾の皺は紙衣風に見える)。浄土寺空也上人像(重文)、太山寺十一面観音立像(重文)のほか、太山寺女神像(伝玉津姫及び般若姫)は11世紀初めごろの、四国における堅実な神像彫刻の作例として重要。工芸品も充実しており、真光寺密教法具(重文)、嘉吉3年(1443)銘を有する大寶寺三十三燈明台、太山寺の日月鈴などなど。前神寺銅板状阿弥陀如来像は、陽鋳銘に永祚2年(990)とあるが、従来室町時代という判断がなされてきた資料。ただ充実して量感ある阿弥陀如来の表現は10世紀末でも違和感なく、研究史を紐解いてさらに考えてみたいところ。
 四国へんろ展開催の意義は、このように資料を間近に拝見して、四国全体に通底するもの、あるいはその地域独自のものなど、各地域の宗教文化に来館者がそれぞれに思い巡らせる中で、その価値や魅力に気づき、四国の文化遺産を共有していく機運を醸成していくことにあると拝察する。香川会場(10月18日~11月24日)、徳島会場(10月25日~11月30日)にも、なんとしても「巡礼」しなければならない。図録あり(240頁、2200円)。

9月14日
篠山能楽資料館
 能楽の美
(9月9日~12月24日)
 彼岸には少し早いが、祖母の墓参りのために丹波氷上の岩瀧寺へ。岩瀧寺のある五台山付近は、先月の記録的豪雨で大きな被害があり、岩瀧寺渓谷でも大規模に土石流が発生。岩瀧寺境内も土砂が崩れるなど惨憺たる状況。住職(尼僧)に挨拶して状況をうかがい、お見舞いする。
 篠山市へ足を伸ばして、久しぶりに能楽資料館訪問。秋季展として、収蔵する能面、装束、楽器等道具類を展示。出目満毘(満矩)・満猶・庸久・満永による赤鶴作の極めがある華やかな小面(金春家伝来)をながめ、近世における世襲面打家の「赤鶴様式」観形成について考える。伝日光作の翁面も同様の観点から鑑賞。ほか、永禄元年井関親政作般若、作者不詳の龍女、舌出乙など。図録なし。
 能面研究は、写し、直し、種類の多さ、作家の多さ、演目の多さ、能の流派による細やかな違い(伝統)、神聖観に基づく調査の壁、能楽史研究の蓄積(及びそのスクールの結束)…と難易度が高いし、微細なお作法的知識で挫折しそうになる。近世能面の「海」への航海は難破しそうで怖いが、源流である中世能面(猿楽面)の様式形成過程はやはり興味深い。いずれにせよ、論理的に仮面を比較検討する努力を続けなければ。

10月18日
三重県総合博物館
 祈りと癒しの地 熊野
(10月11日~11月24日)
 新館開館記念特別展の第4弾。熊野古道・伊勢路を軸に三重県内の熊野信仰遺産をあつめる。善教寺阿弥陀如来立像像内納入品は藤原実重の作善日記や願文からなり、鎌倉時代の地方武士の熊野信仰のあり方を具体的に示す重要資料。佛心寺熊野本地三所権現曼荼羅は八葉蓮華に本地仏を配するタイプの、室町時代の作例で、那智滝表現が独特。仏像では光背銘から天永年間(1110~1113)の造像と分かる正法寺十一面観音立像、三重県南部最古の作と評価される安楽寺薬師如来坐像(11c)、嘉暦4年(1329)銘を有する真巌寺薬師如来坐像など。
 なにより本展を特徴づけるのは、三重県内に多数分布する熊野観心十界曼荼羅。展示替えがあるが、他県の資料も含め22幅を一挙公開。2007年に三重県立美術館で展示されて以来の規模で、こうした地域の宗教文化を特徴付ける顕著な資料群の展示の受け皿として、今後三重県博が活動されていくことの、高らかな宣言のようにも感じる。図録あり(112ページ、1300円)。

斎宮歴史博物館
 特別展 伊勢と熊野の歌
(10月4日~11月9日)
 伊勢と熊野をめぐる和歌の諸相を、和歌集の諸本ほかから示す。展示の核は、近年収蔵された資経本斎宮女御集の鎌倉時代写本。会期後期には、そのツレの資料である冷泉家時雨亭文庫の資経本増基法師集と並べる。ほか、和泉市久保惣記念美術館本(藤原範光筆)と京都国立博物館本(後鳥羽上皇筆)の熊野懐紙、文化庁西行法師行状絵詞(俵屋宗達模写本)、三井文庫の伊勢参詣曼荼羅、西行ゆかりの伊勢・安養寺跡出土遺物、新宮市阿須賀神社出土懸仏など。図録あり(64ページ、1728円)。

10月22日
高野山霊宝館
 企画展 国を護る神仏
(10月11日~1月12日)
 鎮護国家に関わる修法本尊や経典をチョイス。普賢院五大力菩薩像(重文・鎌倉)、西南院蒙古退治四社明神像(室町)、西南院十二天曼荼羅図(室町)、金剛峯寺聖天秘密曼荼羅図(江戸)、竜光院紺紙金字金光明最勝王経(国宝・奈良)、西南院大孔雀明王経(唐・景龍3年)、正智院銅五鈷鈴(重文・唐)など。華やかさはサントリー美術館の「高野山の名宝」展に任せ、渋く高野山の歴史的役割を紹介。図録なし。

10月26日
福岡市博物館
 特別展 九州仏-1300年の祈りとかたち-
(10月12日~11月30日)
 九州に伝わる仏像(福岡35件・大分10件・佐賀9件・長崎5件・熊本12件・鹿児島5件)を広く集めて展観。冒頭に展示される大分県の天福寺奥院諸尊像、福岡県の謹念寺・観世音寺・長谷寺・浮嶽神社の諸尊像、佐賀県山崎観音堂の観音菩薩像や長崎県・対馬の法清寺観音堂諸尊像といった8~10cの木彫像群が一つの見どころ。その他、平安時代後期の兜を別材製とする神将形像や鹿児島県・隼人塚などの石造品の文化、鎌倉時代後期の「唐様」を取り入れた仏像、そして中国・朝鮮半島から伝来した仏像と、九州の仏像を把握する際の一つの指標となる地勢的な要因による「中央との距離」あるいは「国外との接触」という問題を濃密に追求しながら、豊かで魅力的な地域性を、作例を通じて示す。九州各県において積み上げられてきた仏像研究における、現時点での成果と課題を広く共有する貴重な機会。図録あり(256ページ、2500円)。
 同行した子は、1階の資料に触れる体験コーナーで、あれこれ見て喜ぶ。ちょっと行儀悪くてひやひや。

九州歴史資料館
 特別展 福岡の神仏の世界-九州北部に華ひらいた信仰と造形-
(10月10日~11月30日)
 九州歴史資料館のこれまでの着実な調査研究活動によって把握されてきた、福岡県内に伝わる古代~中世の仏像や神像の重要作例を新出資料も含んで展示し、かつそれらが伝来した信仰の場の風景を、資料を通じて「物語る」内容。個人所蔵となる男神立像(像高50.4㎝、展示では9c)は、制作時期は幅を持って見ておきたいが、立像神像の初期作例であり、今後の神像研究の上で重要な位置を占めるもの。伝来の追求が待たれる。ほか、若杉霊峰会千手観音像、谷川寺薬師如来像、浮嶽神社如来形像、鹿部観音堂聖観音像といった9~10c彫像群はやはり存在感があって「九州仏」の魅力を示し、大祖神社・飯盛神社の宋時代の石造獅子や朝鮮半島伝来の古代~中世の金銅仏など地域性を明確に示す重要資料も展示。九歴と福岡市博の展示テーマが同時期に重なったのは偶然のようであるが、伏流する大きな問題意識は共通していて、九州地域における仏像研究の最前線を体感できるよい機会。図録あり(140ページ、1000円)。巻末、福岡県指定文化財(彫刻)の一覧は写真も付随し便利。
 同行した子は、体験コーナーでボランティアのおじさんに優しく教えてもらって瓦の拓本をとっていたが、次の目的地に行くためばたばたとしたため、どこかに置き忘れてしまいしょんぼり。

筑前町立大刀洗平和記念館
 戦前・戦中に大陸への中継基地、あるいは飛行兵等の養成所であった、広大な大刀洗飛行場の故地に設けられた施設で、戦闘機の実機2機が修復展示される。ホールで行われていた映像の上映と絵本『ほたる』(山本真理子作)の朗読を聞く。犠牲になった人々への哀悼の思いの大切さと、犠牲的行為を美化し消費することの恐ろしさについて子と話す。

11月1日
新大仏寺
 和歌山県立博物館友の会のバスツアーで、重源ゆかりの伊賀別所を訪れ、新大仏殿(宝蔵庫)で石製台座(重文)、丈六の如来坐像(重文)、重源上人像(重文)、建仁3年(1203)年銘板彫五輪塔(重文)を拝観。如来坐像は頭部のみ古く、『南無阿弥陀仏作善集』の記述から本来は逆手来迎の阿弥陀如来及び両脇侍像であり、頭内の墨書に「大仏師安阿□」とあり快慶の作と分かる。建仁2年(1202)ごろ造像の可能性。重源の勧進と作善について解説。ご住職さんにご挨拶し、『伊賀国新大佛寺-歴史と文化財-』(執筆:赤川一博)を拝受。

三重県総合博物館
 祈りと癒しの地 熊野
(10月11日~11月24日)
 再訪。熊野古道・伊勢路を軸に三重県内の熊野信仰遺産をあつめる。事前にたくさんの熊野観心十界図が展示されていること、熊野比丘尼らによって絵解きされたこと、そしてそれら僧尼は勧進僧であり、重源の勧進・作善とつながることをご説明。ちょうど、現在確認されている全ての浄土双六(津市個人本、志摩市個人本、山形県長学院本)がそろい踏みで(11月9日まで)、じっくり見ておく。館長さん、学芸員さんにもご挨拶。図録あり(112ページ、1300円)。途中の行程が遅れて、滞在時間が短くなってどたばたになり残念。

11月3日
徳島県立博物館
 四国霊場開創1200年記念 空海の足音 四国へんろ展 徳島編
(10月25日~11月30日)
 四国4県でそれぞれ独自のラインナップで開催する四国へんろ展の、徳島編。14世紀末ごろ造像の神山町・焼山寺弘法大師坐像は表情に威厳のある等身の作例(応永7年<1400>の彩色銘あり)。近時重文指定された鳴門市・東林院弥勒菩薩坐像は、両手の掌を前に向ける弥勒の経軌に則った手勢の作例で、平安時代後期の洗練された作風を示す。高野山北室院伝来。つるぎ町・東福寺美術館の熊野権現影向図は、京都・檀王法林寺本の忠実な近世の写し。小松島市・恩山寺の神形坐像は三面で冠をつけて長い顎髭を蓄え、蓋襠衣をまとって右手に持物を持つ特殊な図像。像主不明(牛頭天王?)であるが、鎌倉~室町時代ごろの新出神像。美波町・薬王寺星曼荼羅図は小幅であるが、九曜の星の中に尊像を描く。各尊の丸々とした輪郭は古様で、室町時代より遡りそう。ほか、阿南市・太龍寺の康和5年(1103)阿波国大瀧寺所領注進状、徳島市・井戸寺の日光・月光菩薩立像などなど。四国各県や高野山からの出品はもとより、こうした徳島県内の重要資料・新出資料を鑑賞できる貴重な機会であり、得るもの多し。図録あり(240ページ、2200円)。

香川県立ミュージアム
 四国霊場開創1200年記念 空海の足音 四国へんろ展 香川編
(10月18日~11月24日)
 四国へんろ展の香川編。徳島編同様、香川県内の資料を多数集めて独自色を表出する。善通寺市・善通寺の金剛力士像は事前調査で応安3年(1370)の造像と判明。琴平町・松尾寺弘法大師坐像は文保3年(1319)の基準作例。衣紋をやや生硬に刻む仏師法眼定祐の個性は、鎌倉末の作例の中に類例がありそう。豊中町・本山寺愛染明王坐像は等身に近い12世紀後半~末ごろの作例で、徳島県雲辺寺の仏頭5点も同じころの秀作。坂出市・白峯寺の不動明王坐像は像高16.2㎝の銅製で、平安時代後期の優美な作風。解説では崇徳上皇の存在をほのかに匂わせ重ねる。三豊市・大興寺の両界種子曼荼羅は元文6年(1741)開版と読める墨書が付随するが、中世の種子曼荼羅に見まがう古様さ。ほか、善通寺錫杖頭、三野町・弥谷寺四天王五鈷鈴、さぬき市・志度寺十一面観音像や志度寺縁起絵、東かがわ市・與田寺の稚児大師像など重要資料がずらり。香川の信仰遺産を満喫する。図録あり(204ページ、1900円)。
 9月6日の高知・愛媛、今回の徳島・香川への「遍路」で、四国へんろ展を巡る遍路修行をコンプリート!。今回の4会場での四国へんろ展は、「四国八十八箇所霊場と遍路道」の世界遺産登録への運動も背景にあるだろうが、今後、4会場のそれぞれの展示に結実した最新の調査研究成果を一書にまとめることで(おそらく大部のものとなりましょう)、遺産の真実性の証明のための、貴重な達成となるのではなかろうか。辺路(へち)修行、巡礼、聖人(及び聖遺物)崇拝が重なる点が四国霊場の独自性であり、4会場で出陳された多数の中世在銘弘法大師像は、そうした独自性とも合致する。おそらく四国には、中世後期の弘法大師像が各地に遍在していると推察され(在銘資料はそのごく一部)、そうした大師像把握の進展は、あわせて四国の魅力を伝える歴史遺産の新たな発見につながる。四国の文化財調査のこれからが楽しみ。

瀬戸内海歴史民俗資料館
 テーマ展 巡る人々、巡る信仰-讃岐を訪れた木食、全国を巡った六十六部-
(10月7日~12月7日)
 四国へんろ展(香川編)の開催にあわせ、中近世において四国を巡った修行僧たちの造像の軌跡を、大木食以空、大木食蓮業、木食仏海、木食行道(明満とも)、木食観正、木食善住、木食相観ほかの作例から紹介する。全て素朴な木彫像であり、こうした行者系彫像の活動を一望できる貴重な機会。この中で木食行道(明満)の知名度は柳宗悦や民芸との関係で極端に高いが、比較すれば行者系彫像の中では作風が洗練されており、いわば民芸もまた峻別の所産であった。「芸術」とはみなされてこなかった行者系彫像の重要性は、像の存在価値が造形表現ではなく、行者の験力の眼に見えた現れであることにあると思う。各地の調査で同様の作例(多くは無銘)は普遍的に見つかるが、こうした造像を分類し編年する努力を続けることもまた、日本の文化史を見つめていくための大切な作業であることを、あらためて思う。これもまた、美術史が果たすべき役割である(もちろん日本史学であり民俗学であり宗教学でもある)。リーフレット2種あり(A4・4ページ)。すばらしい展示と、心の中で拍手。パチパチ。

11月10日
奈良国立博物館
 天皇皇后両陛下傘寿記念 第66回 正倉院展
(10月24日~11月12日)
 恒例、正倉院展。今回の目玉資料である鳥毛立女屏風を、十重二十重の頭越しに見る。ほか、興味に即して伎楽面崑崙、酔胡従、銅三鈷、四分律ほか聖語蔵の経典などをじっくりと。紫檀木画挟軾、衲御礼履、密陀彩絵箱、白瑠璃瓶など御物ならではの「奇跡」的な輝きを眺めつつ、守り伝えるための意志・制度・言説が歴史の各段階で構造化され、重層化したことで引き継ぐことができた「必然」を思う。図録あり(152ページ、1200円)。

11月12日
東京国立博物館
 日本国宝展
(10月15日~12月7日)
 国宝を集め、その美術的・学術的価値の高さを提示する国宝展。昭和35年、平成2年、平成12年に引き続いて4回目。重要資料は列記しきれないが、元興寺極楽坊五重小塔を運べたり、正倉院御物を特別展示できるのはさすが国立館で、毎回のチャレンジングな姿勢に感心する。絵画資料はごく近距離で鑑賞できるケースに入れられて細部まで確認できるのは、鑑賞者の便を図る姿勢に溢れる(一部ケースは近づくと注意されたけれど)。
 元来、文化財保護法に基づいて設置された国立博物館は、独法化後の法律(独立行政法人国立文化財機構法)も元の法律の条文を引き継いでいて、「貴重な国民的財産である文化財の保存及び活用を図ることを目的」とする。「国宝展」の開催はその使命に合致するもの。本展では資料の分野別ではなく、歴史の諸段階での信仰のかたちを追うように資料選定を行った点に新味があり、また理念に共感する。その点で、先の使命からいえば「国宝」に自縄自縛されず、未来の国宝である重要文化財もあわせて選定すれば、展示の幅が広がって信仰史を丁寧にたどれたかもしれない。10年後(?)の「国宝」展では、文化財保護の体系をダイナミックに感じてみたいとも思う。図録あり(290ページ、2600円)。

特集 日本の仮面 能面 創作と写し
(11月5日~1月12日)
 館蔵品と寄託品を用いて、能面の本面と写しを並べて比較する。文蔵作の極めがある鼻瘤悪尉と出目友水によるその写し、室町時代の鷲鼻悪尉と出目甫閑、出目友水の写し、秀吉ゆかりの雪の小面(写真)と河内家重、出目満昆の写し、室町時代の曲見と出目是閑の写しでは本面の傷まで写していることを丁寧に示す。彫刻史研究の立場でモノに即して能面をいかに研究するか、その最先端の方法論を提示する。
 仮面は聖と俗をつなぐマジカルツールである。芸能の場で用いられる能面もまた聖なる道具である。創作面にみられる造形の魅力と、写しの面にみられる精神の移植が等価値となることは、まさしくそうした聖なる仮面の性質を能面が引き継いでいることの証明である。能面研究の新たな地平が見えつつある。図録あり(26ページ、648円)。特集展示に果敢に図録を用意されたことは、情報の共有化を図る上で重要。すばらしい。

サントリー美術館
 高野山開創1200年記念 高野山の名宝
(10月11日~12月7日)
 高野山の名宝を、彫刻・工芸資料を主体にして一堂に展示。運慶作八大童子像、快慶作孔雀明王像、四天王像、執金剛神像が目玉。八大童子は、その視線を意図的に捉える近年の研究を踏まえて配列(左右は反転)。そこに運慶の意志はあるやなしや、などと考えられるのも展覧会の醍醐味。後補の2躯(鎌倉末~南北朝)も等閑視されがちだが、中世の堅実な作例であり、高野山史上に位置付ける作業の必要性を改めて思う。注目は、執金剛神像の像内から発見された納入品のうち、源阿弥陀仏書写の宝篋院陀羅尼経。じっくり丁寧に鑑賞。南無阿弥陀仏(重源)の勧進(作善の勧め)によって建久8年(1197)に写経して結縁したことを示す内容。故友鳴利英氏の研究で一具性が検証された四天王像の制作時期も建久期でほぼ確定したことも重要。研究は着実に進展している。同展は年明けにあべのハルカス美術館へ巡回(1/23~3/8)。図録あり(192ページ、2400円)。

11月15日
京都国立博物館
 平成知新館オープン記念展 京へのいざない
(9月13日~11月16日)
 新館開館記念展に、ようやく滑り込む。彫刻室の広さに驚く(ライティングと照度確保には苦労しそう)。館蔵品、寄託品の名宝が分野別の各部屋にずらりと並んでいるようすは、なぜだか旧館の展示室を経巡った記憶ともリンクして、京博が帰ってきたなという感慨を抱く。特別展「修理完成記念 国宝 鳥獣戯画と高山寺」は入場3時間待ちだったのであきらめ、図録(192ページ、2600円)だけ購入。丙巻合い矧ぎのことなどふむふむと読む。

大津市歴史博物館
 智証大師円珍生誕1200年記念企画展 三井寺と仏像の美
(10月11日~11月24日)
 智証大師生誕1200年の記念に、三井寺の法会と連動して開催。三井寺及び周辺地域に所在する仏像や仏画を集約。唐院長日護摩堂本尊の不動明王坐像は、鎌倉時代前期の優れた作例で、銅製装飾も古い。湛慶周辺の不動明王表現の基準を見る思い。乾漆宝冠釈迦如来坐像は、中世においては特殊な素材で造られ、法量も大きく、唐様の表現も洗練。中世捻塑像の系譜を考える上で、はずせない作例。乾漆仏はもう1躯、三井寺周辺寺院の菩薩坐像(明時代)も展示。絵画は中世仏画の新資料とともに、冷泉(岡田)為恭の写した黄不動像や、法明院伝来の粉本など、近世絵画も多く出陳。古代、中世の作例はもとより、近世の仏像・仏画にもきちんと目配りして紹介している点は、三井寺における信仰史の連続を美術資料を通じて示そうとするものであって、重要な取り組み。仏画については、ミニ企画展「三井寺の近世仏画」(10月15日~12月7日)を合わせて開催。図録あり(160ページ、1500円)。ミニ企画展の出陳資料も図録には掲載される。

三井寺
 天台寺門宗宗祖智証大師生誕1200年慶讃大法会
(10月18日~11月24日)
 慶讃大法会の事業として、絶対秘仏の本堂本尊を除く、山内の秘仏が御開帳。智証大師御廟の唐院では、内陣3つの厨子が開扉され、智証大師坐像(中尊大師・国宝・10c)、智証大師坐像(御骨大師・国宝・9c)、黄不動尊立像(重文・13c)を拝観。感動。観音堂でも、内陣3つの厨子が開扉され、如意輪観音坐像(重文・10c)、愛染明王坐像(重文・12c)・毘沙門天立像(13c)を拝観。また新たに建設された三井寺文化財収蔵庫では聖観音立像(重文・9c)、訶梨帝母坐像(重文・13c)、智証大師坐像(重文・13c)と勧学院客殿襖絵(重文・17c)ほか。中世・近世の建造物も眺めながら山内を巡る。大津歴博の展示と合わせて、絶対秘仏の本堂本尊と新羅明神像を除いて、三井寺の仏像の大半を拝観。充実。

11月19日
MIHO MUSEUM
 特別展 獅子と狛犬-神獣が来たはるかな道-
(9月2日~12月14日)
 ギリシャからオリエントへ展開した獅子表象の諸相を資料でたどり、日本の獅子・狛犬のルーツを探る。獅子が力の象徴(狩るもの/狩られるもの)であって守護獣としての役割が充てられたこと、狛犬は角のある聖獣グリフィンがルーツであるとする。展示替えで一度には見られないが、手向山八幡宮狛犬、御調八幡宮狛犬、丹生都比売神社狛犬、法隆寺獅子頭、岡山・熊野神社石造狛犬など、様々な制作時期の獅子・狛犬の代表作例のほか、地元滋賀県の資料を丹念に拾い、また東北地方の作例にも目配りして、細やかに資料を集める。獅子・狛犬をダイナミックな東西交流の視点から位置付け、全国の作例を集約して比較/鑑賞する内容は、獅子・狛犬展示の到達点といえる。充実。図録あり(301ページ、2916円)。

11月23日
福井県立歴史博物館
 特別展 白山曼荼羅-描かれた神々と白山信仰-
(10月25日~11月24日)
 霊峰白山を核とする信仰の諸相を仏像・仏画から紹介するとともに、泰澄伝承と観音信仰にも目配りして、越前地域の信仰史の重層性を示す。鯖江市・春日神社の十一面観音立像は、等身大の、古様を残した10世紀彫像。坂井市・豊原家所蔵の薬師如来坐像は白山信仰の拠点の一つ豊原寺講堂の元本尊像。量感を残した10末~11c初の作例。ほか、越前町・八坂神社十一面女神坐像(12c)、福井市・白山神社の女神坐像(白山姫)・僧形神坐像・男神坐像からなる三神像(12c)、越前町・大谷寺の越知山三所権現坐像(十一面・阿弥陀・聖観音、12c)など、白山信仰に基づく神仏習合の優れた所産を集約。また白山比咩神社の白山三社神像(13c)を筆頭に、平泉寺白山神社の白山神影図、関市・神光寺白山垂迹曼荼羅図、郡上市・長滝白山神社白山曼荼羅図など、加賀・美濃・越前の白山三馬場のそれぞれで白山曼荼羅の図像構成が異なることを知る。中世~近世の地域に残る資料を細やかに集めて白山信仰の広がりを具体的に示す展示で、県立博物館の機能と役割を十二分に発揮。白山信仰の勉強、もっとしたくなる。図録あり(116ページ、1200円)。

福井県立若狭歴史博物館
 リニューアル記念展 華々しい若狭の歴史 Ⅲ部 新八幡・絵巻の世界
(10月18日~11月30日)
 かつて若狭国遠敷郡の新八幡宮に「伴大納言絵詞」(現品は出光美術館蔵)、「吉備大臣入唐絵巻」(現品はボストン美術館蔵)、「彦火々出見尊絵巻」(現品は江戸城に伝わり焼失、写しは明通寺蔵)が伝来した歴史を、各絵巻の写しとともに、近年の考古学・地域史研究に基づいて追跡。若狭国府の故地と目される小浜市金屋に所在する小浴(こみなみ)神社にかつての「惣社」が合祀され、かつ惣社に八幡社が含まれていて、小浜八幡に対して「新」八幡と呼ばれうることを示し、絵巻がかつて伝わった地を現地比定する。絵巻研究上、今後必ずおさえるべき重要な成果。残念ながら図録ないが、同館発行の『明通寺1201-坂上田村麻呂と若狭-』(2007)に概ね関連情報が収載される。
 リニューアルされた常設展示も鑑賞。若狭のみほとけゾーンは、尊像の威厳を増すライティングと落ち着いたしつらえに。初見の小浜市・常徳寺阿弥陀如来坐像は、隆起を顕わにする肉身表現と、悠揚と座る姿勢に優れ、やや浅めの翻波式衣紋も効果的。頭部に補修があるが、9c末~10c初ごろの重要作例。蓮華寺阿弥陀三尊像は院政期の堅実な作例で、面部にやや意志的な表情も現れ始めている。平安末~鎌倉初(12c)。ほか小浜市・黒駒区大日如来坐像(11~12c)、小浜市・仏谷区阿弥陀如来坐像(10c)など。地域の文化財を保全し、情報を共有化するための拠点施設としての役割を果たす意志が、展示を通じてひしひしと伝わる。

羽賀寺
 時まさしく「若狭の秘仏特別公開」の真っ最中。残念ながら時間なく、羽賀寺にだけ立ち寄る。本尊十一面観音立像とゆっくり対面。長く秘仏であったため彩色が良好に残る。幅広の天冠台、異国的な風貌、腰高ですらりとした痩身は、類似資料の少ない孤高の作例で、9世紀半ばごろの造像。本堂周辺では、鬱蒼と茂る檜林からニホンザルの群れが現れ、目の前をギャアギャアと騒ぎながら走り過ぎる。観音菩薩のおわすところは、まさに補陀落浄土であることよ。

11月24日
和歌山市立博物館
 特別展 江戸時代を観光しよう-城下町和歌山と寺社参詣- 
(10月18日~11月24日)
 江戸時代の名所探訪の旅のあり方を、諸資料より示す。愛知・明星院那智参詣曼荼羅、粉河寺の粉河寺参詣曼荼羅、得生寺中将姫坐像、学文路刈萱堂の苅萱道心・石童丸・千里ノ前坐像といった宗教文化財のほか、地誌、巡礼記、道中案内記など満載。図録あり(104ページ、800円)。そばなのに最終日に滑り込みで申し訳ないかぎり。いつでも行けるはいつまでも行けない。

11月29日
和泉市久保惣記念美術館
 特別展 微の美術-日本・中国の小ささと緻密さの造形-
(10月10日~11月30日)
 小さく緻密な技巧が凝らされた美術資料を集めて愛でる展示。根付、印籠、目貫、引手、簪、小仏像、文房具、鼻煙壺など。絵画では白鶴美術館の細字法華経、個人蔵の長澤芦雪筆方寸五百羅漢図ほか。館蔵の胎蔵界八葉院曼荼羅刻出龕(重文)、丹生都比売神社の金銅琵琶(重文)をじっくりと。図録あり(2200円)。

12月7日
和泉市いずみの国歴史館
 特別展 ほとけとひとと-和泉市内の仏像・仏画展2-
(12月6日~1月25日)
 和泉市史編纂事業の調査で把握された、施福寺や松尾寺などを中心とする寺社伝来の文化財を集約。施福寺大日如来坐像は9世紀半ばの密教彫像で、近年発見された作風が一致する和歌山県林ヶ峰観音寺の菩薩形坐像をともに展示。数百年ぶりの邂逅。施福寺地蔵菩薩立像は像高50.5㎝の小像であるが、12c末頃の洗練された作風で、近年の修理で細密な截金文様が良好に残されていることが判明。襟部で頭部・胸部を割り矧ぎ、両足部材も像底に挿す構造と報告され、手に取る宝珠やその火焔(銅製)も当初のものが残る。錫杖も古い可能性あり。今後無視できない院政期彫刻。ほか大泉寺聖徳太子二歳像(鎌倉)、妙泉寺日像上人像(室町)、松尾寺真言八祖像(鎌倉、応永8年修理銘あり)、役行者像(鎌倉)、三鈷杵(鎌倉)、市蔵の槙尾山経塚出土品など。槙尾山経塚の胎蔵五仏鏡像は緻密な構成の佳品。保延5年(1139)埋納。和泉市の仏教美術をまとまって鑑賞できるよい機会。図録あり(18ページ)。
 同日、当方も講演会「施福寺と林ヶ峰観音寺の菩薩形坐像-初期密教彫像の新出作例-」を担当。時間なくどたばたの準備であったが、両像の特徴と一具性を集中してお話しする。聴講された方から、3体目がどこかにあるかもしれませんねと問われ、ぜひ見つけましょうと応じる。

12月13日
奈良県立美術館
 特別展 語り継ぐココロとコトバ 大古事記展-五感で味わう、愛と創造の物語-
(10月18日~12月14日)
 奈良県が取り組んできた「記紀・万葉プロジェクト」による、古事記の世界観の魅力を文化財・美術作品で伝える内容。初公開の丹生川上神社の神像群、狭川両西敬神講の翁面をじっくり鑑賞。ありがたい。全体としては、神話の物語性を味わった先に、神話に語られたこと(及び語られなかったこと)を通じて見える古代史の実像をもっと見たかったところ。現代作家の作品も、神話イメージの再生産(あるいは消費)に留まったか。図録あり(120ページ、1600円)。
 開館直後に入館し、ばたばたと鑑賞して、東大寺へ急ぎ、密教図像学会の大会に参加。若手研究者の方々の緻密な議論に接し、自分の報告内容のおおざっぱさを恥じて鬱々と帰る。

12月17日
多摩美術大学美術館
 四国霊場開創1200年記念 祈りの道へ-四国遍路と土佐のほとけ-
(11月22日~1月18日)
 四国霊場開創1200年記念として、高知県所在の仏像を多数展示。また四国遍路の歴史も紹介。名留川観音堂仏像群のうち菩薩形立像のうち1号像は量感のある10世紀彫像で、板光背が附属する。3号像は背面材内面に如来形の伸びやかな線描があり、御衣木加持の痕跡を示す貴重な事例。儀礼とその後の造像の息づかいが甦るよう。金林寺仏像群のうち菩薩形立像1号像は面部が表されず湾曲面に木釘痕があり。特殊な面部別材矧の手法か(当初か後補かの問題もあり)。定福寺の笑みを浮かべる像を含む魅力的な六地蔵尊は会期中に年輪年代測定がなされ、うち1躯に1185+αの層ありと判定。平安後期風を強く残す鎌倉時代前期の造像。表現様式とも齟齬せず。ほか、笹野大日堂大日如来坐像、上郷阿弥陀堂阿弥陀如来坐像といった鎌倉初期の優品や、銅製棒を踵に挿して立つ仏足文を有した竹林寺阿弥陀如来立像は13世紀半ばごろの作例で、銅製螺髪・歯吹きとしないタイプ。等々、美術史研究上も、地域史研究上も重要な作例を多数集めた意欲的な内容で、文化財を通じて高知の風土の魅力がひしひしと伝わってくる。先に閉幕した四国4県の四国へんろ展とも接続する、すばらしい内容。図録あり(262ページ、2000円)。
 展示見学後、内閣府へ移動してレクチャーを受けたのち、総理大臣官邸へ。平成26年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰の授賞式に出席し、当方が担当してきた和歌山県博のさわれるレプリカとさわって読む図録作りに対して内閣総理大臣表彰を授与される。最初で最後の総理官邸だろう。ミュージアムがあらゆる人々にとって使いやすい場所となるための取り組みが、他施設にも広がってくれるとうれしい。

1月18日
京都国立博物館
 特別展観 山陰の古刹・島根鰐淵寺の名宝
(1月2日~2月15日)
 1ヶ月ぶりの展覧会鑑賞。科研「出雲鰐淵寺の歴史的・総合的研究」(研究代表者:井上寛司島根大名誉教授、2009~2011)等に基づく新たな研究成果を反映した展示。壬申年(持統天皇6年<692>)銘の銅造観音菩薩立像(重文)、連眉の銅造観音菩薩立像(重文・奈良時代)、平安時代後期の銅造不動明王像は鋳造失敗品ながら優れた造形で同鋳の胸飾も珍しい。ほか堅実な作風の平安時代後期神像、鎌倉時代の密教法具、中世文書が出陳。図録ないが、A3両面刷りのリーフレットに主要作品図版と解説文あり。昨年秋の島根県立古代出雲歴史博物館「修験の聖地 出雲国 浮浪山鰐淵寺」を残念ながら見逃したので、少しは挽回。
 同行した娘は機嫌良く平常展示の各室を回る。音声ガイドを借りて付けさせたら、適当に番号を押して「狩野永徳って言ってるからそれを見たい」と言うので一緒に探すも、未出陳。なるほど、最初から主要な作品の音声データを一定数機械にストックしておいて、展示替えに対応するのかと納得。狩野山楽・山雪の襖絵を見せて、これ描いた人のお父さんと一応伝えておく。向かいの三十三間堂では通し矢(大的全国大会)で大賑わい。

城陽市歴史民俗資料館
 特別展 土・仏・祈-古代の信仰をみつめて-
(1月10日~3月15日)
 古代寺院跡から出土した塑造とセン仏を集約して展示。京都府下の神雄寺(木津川市)、高麗寺(木津川市)、西山廃寺(足立寺・八幡市)、美濃山廃寺(八幡市)、大山崎遺跡群(大山崎町)、平川廃寺(城陽市)、正道廃寺(城陽市)のほか、川原寺(奈良県)、上淀廃寺(鳥取県)、夏見廃寺(三重県)の資料を集める。地元平川廃寺の塑造片については、長さ6㎝の足指から両足先を復元(制作・山崎隆之愛知県立芸大名誉教授)、像高3mに及ぶ菩薩像の断片であることを明らかにして会場内に原寸の線描画を設置、鑑賞者が当初像を想像することを容易にしている。国分寺の前身とみられる同廃寺の意義が実感される。図録あり(17ページ、390円)。

1月24日
兵庫県立歴史博物館
 阪神・淡路大震災20年 災害と歴史遺産-被災文化財等レスキュー活動の20年-
(1月10日~3月15日)
 阪神・淡路大震災をきっかけにクローズアップされた、被災文化財に対するレスキューの取り組みとその意義を広く周知する展示。内容は大きく2部に分かれ、前半では東北地方太平洋沖地震に伴う大津波による文化財被災の状況とレスキュー、安定化処理を、多様な被災文化財を通じて紹介(制作主体:津波により被災した文化財の保存修復技術の構築と専門機関の連携に関するプロジェクト実行委員会)。後半では阪神・淡路大震災や兵庫県内の豪雨災害により被害を受けた文化財へのレスキュー活動とその安定化処理、及び兵庫県の災害史を、歴史資料を中心に紹介する。被災当事者には対応が難しい文化財レスキューを行うためのネットワーク組織の形成が各地で行われつつあるが、そのさきがけである阪神・淡路大震災直後に神戸大学内に設置された歴史資料ネットワーク(史料ネット)の活動と、同ネットが普及に努める被災資料のクリーニング方法なども紹介。必ずどこかで起こりうる非常事態に際して資・史料を保全するための準備をいかに平常時に行うか、当事者意識の拡大をはかるこうした機会を地道に継続していくことが大切。
 図録2冊あり。展示前半部分は『大津波被災文化財保存修復技術連携プロジェクト 安定化処理』(256ページ、1500円)、展示後半部分は特別展タイトルと同名(92ページ、800円)で、2冊セットで2000円。津波により被災した文化財の保存修復技術の構築と専門機関の連携に関するプロジェクト実行委員会が関わる展示は、東京国立博物館特別展「3・11大津波と文化財の再生」(1月14日~3月15日)、宮崎県総合博物館特別展「“文化財”を守り伝える力-大災害と文化財レスキュー-」(1月10日~2月22日)として、3館で同時に開催中。

2月1日
奈良国立博物館
 ユネスコ無形文化遺産登録記念特集展示 和紙-文化財を支える日本の紙-
(1月27日~3月15日)
 和紙の製法、素材、種類、特質と、文化財との関わりについて、丁寧に紹介。前半は和紙を用いた文化財の保存修理(裏打ち・繕い・下貼り・漆濾し)を紹介し、後半は麻紙(まし)、檀紙(まゆみがみ)、楮紙系の穀紙・檀紙(だんし)・杉原紙(すいばらし)・奉書紙、再生紙の漉返紙(すきかえしがみ)、斐紙(雁皮)を、それぞれの料紙を用いた経典・古文書と顕微鏡写真とともに展示して理解を助ける。檀(まゆみ)紙製の賢愚経(東大寺蔵)の料紙に見える粒々、斐紙製の般若心経(海住山寺蔵)の顕微鏡でも繊維がほとんど見えない平滑さを眺め、料紙へのまなざしの持ち方を学ぶ。紙漉きの映像も子とともにじっくりみて、手つきを真似る。図録あり(22ページ・500円)。

2月2日
泉南市埋蔵文化財センター
 天恵の楽園 砂川遊園展
(11月8日~3月31日)
 砂川奇勝にかつてあった砂川遊園について、当時のパンフレット(カラーコピー)や写真(パネル)、昔を知る方々からの聞き取りをもとに紹介。砂川奇勝は、宅地開発が進んで今はごく一部が公園に残るのみだが、かつての景観を見ると、もろくさまざまな形に崩れた砂岩の山が累々と続き、やはり壮観。

2月21日
あべのハルカス美術館
 高野山開創1200年記念 高野山の名宝
(1月23日~3月8日)
 高野山開創1200年の諸法会を4月に控え、大阪で名宝展を開催して機運を盛り上げる。昨年秋のサントリー美術館での展示から巡回。諸尊仏龕、聾瞽指帰、運慶作八大童子像、快慶作孔雀明王像、四天王像、執金剛神像、平安時代前期の大日如来坐像などずらり並んで贅沢。孔雀明王像も含めすべてケース内展示で、安心(露出展示はどきどきするのです)。聾瞽指帰に人の滞留なく、じっくり鑑賞。図録あり(192ページ、2400円)。

3月28日
東寺宝物館
 開館五十周年記念 東寺名宝展-国宝両界曼荼羅図と祈りのマンダラ-
(3月20日~5月25日)
 国宝両界曼荼羅(前期:胎蔵曼荼羅、後期:金剛界曼荼羅)の公開を軸に、曼荼羅に関わる聖教類を展示。弘法大師請来目録(重文)、胎蔵曼荼羅略記上・下(重文)、真言七祖像(国宝)のうち龍猛像(後期:龍智像)や、巨大な元禄本両界曼荼羅図(複製)も。リーフレットあり(8ページ)。

龍谷ミュージアム
 特別展 聖護院門跡の名宝-修験道と華麗なる障壁画-
(3月21日~5月10日)
 初代熊野三山検校・増誉の900年遠忌にあわせ、聖護院と本山修験宗寺院の文化財を集める。彫刻では、院政期の不動尊中屈指の名作である聖護院本尊の不動明王立像(11c、重文)と、その模刻的な性格を持つ積善院不動明王立像(12c、重文)、彩色と截金が優美な峰定寺不動明王二童子像(久寿元年[1154]、重文)、珍しい風貌の伽耶院不動明王立像(10c)など、多様な不動明王像を集める。また、書院の近世障壁画(襖絵)を、展示室の限られた空間内に縦横にケースを組んで、その空間構成を再現しつつ展示。増誉以来、修験の中枢をなす重要な権門であり続けた聖護院の宗教的位置を示すとともに、絢爛豪華な近世美術から門跡寺院としての一面も明示して、聖護院門跡の実像を紹介する好企画。近年、永らくの整理作業が完了した聖護院の古文書は、京都文化博物館「聖護院門跡の名宝-門跡と山伏の歴史-」(3月21日~5月10日)で展示。図録あり(206ページ、2400円)。

京都国立博物館
 特別展観 天野山金剛寺の名宝
(3月4日~3月29日)
 大阪府河内長野市の金剛寺に伝来する彫刻・絵画・聖教・典籍・工芸のさまざまな文化財を、指定品を中心に集約。同寺金堂本尊大日如来坐像(重文)、脇侍不動明王坐像(重文)の修理後の公開にあわせた企画であるが、延喜式(国宝)、延喜式神名帳(国宝)、剣(国宝)、日月山水図(重文)、腹巻及膝鎧(重文)、五秘密曼荼羅図(重文)、などなど、会期が短く、図録も作成されないのがもったいないくらいの大盤振る舞い。大日如来坐像台座附属の獅子6躯(平安時代後期)は形状が多様で、獅子・狛犬表現との比較の上でも興味深い。大黒天立像は像内銘のファイバー調査で南北朝時代初期、慶春の作と判明。リーフレットあり(4ページ)。

高槻市立しろあと歴史館
 企画展 人とほとけのきずな-平安の名宝とさまざまな仏像たち-
(3月14日~5月17日)
 高槻市内の自治会や講で守られてきた仏像等を集め、村のくらしと密接に結びついた信仰の歴史に注目して提示する。山手町自治会所蔵の薬師如来坐像は、等身大で、穏健な作風ながら、古様を残す11c初めごろの堅実な作例。普段お腹の上に置かれる小さな如来立像多数もともに展示。田能自治会所蔵の、樫船神社神宮寺安置の大日如来坐像(胎蔵界)は、等身大、典型的な定朝様の作例で、12c後半の作とみられるが、社伝では貞応元年(1222)作ともするもよう。氷室自治会旧蔵(館蔵)の尼藍婆坐像は、一木より全身を彫出した平安時代(10c~11cごろ)の作例。成合春日神社所蔵の雨乞い祭具のうち龍神像は、龍の頭部が、鎌倉~室町時代の龍頭形竿頭飾を転用して制作された興味深い事例。また、慶瑞寺菩薩坐像(重文)が特別出品。カヤの一木から両脚部を含み全身を彫出した端正な作風の、9cの代用檀像。寛文5年(1665)に後水尾法皇より念持仏の香木観音が慶瑞寺の龍渓性潜に寄進された由。重要な伝来情報。図録あり(54ページ、400円)。

3月31日
高野山霊宝館
 高野山開創1200年記念展 初公開! 高野山の御神宝
(3月21日~7月5日)
 開創1200年記念として、高野山壇上伽藍・御社(山王院)の修理事業に際して、社殿内に納められていた御正体(懸仏・鏡像)や刀剣を一挙初公開。丹生高野両明神の本地仏、金胎の大日如来を表したものでは、承元3年(1209)権少僧都貞暁供養のもの(梵字「アーク」)、弘安9年(1286)定智が開眼供養したもの(梵字「バン」)、正応元年(1288)西教が施入したもの(金剛界大日如来)など、紀年銘作例も含まれ、また堅実な作風のものも多く、重要。特に頼朝子貞暁奉納のものは貴重。鏡板に観音を線刻した円形華鬘形荘厳具は、鞆淵八幡神社沃懸地螺鈿金銅装神輿(国宝)の吊具と近似するもの。鳥頸太刀(中身銘国次)4口はかつらぎ町・丹生都比売神社の鳥頸太刀(中身銘国次)4口と深く関連する資料。ほか、狩場明神・丹生明神像(重文)、高野大師行状図画(重文)、弘法大師・丹生高野両明神像(問答講本尊、重文)など多数。図録あり(100ページ)。4月2日から5月21日の開創法会期間には、限定特別公開「高野山三大秘宝と快慶作孔雀明王像」も開催。運慶作八大童子像(国宝)、快慶作孔雀明王坐像(重文)、空海筆聾瞽指帰(国宝)、唐代彫刻の精華である諸尊仏龕(国宝)がずらり。八大童子は本館紫雲殿の正面に並んで、荘厳。

今年度訪問した館・寺院等はのべ80ヶ所、鑑賞した展覧会は75本でした。